11、年下の部下は弱みを見せてくる(side誠)

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11、年下の部下は弱みを見せてくる(side誠)

 脇腹あたりの制服の裾をいきなり掴まれて驚いた。その手がわかりやすく震えていて俺がした質問の答えを示している。 「く、暗いのも……ちょっと……無理なほうで、その」  ゴロゴロ雷が鳴るとまた声を震わせた。 「ひゃ……!かっ、雷と同時には……ちょっと、きゃあ!」  まだ鳴る雷にとにかく怯えている。  本人の話し方はなるべく平静をよそっている風にも聞こえるけれどまぁそんなことは全くできていなくて。体を縮こませて、雷が鳴るたびに体を震えさせていたら無理をしているのが一目瞭然だった。  普段見ることのない彼女の意外な一面を知った。 (こんな素の表情初めて見るな。なんだろう、幼い子みたいな……)  いつも基本静かに黙々と仕事して。感情をあまり出さないようにしているような姿が目に付いていた。それが今は無防備で、隙がある。そこまで思って思考を止めた。余計なことは考えない方がいい。 「とりあえずここ出ようか。実験室のがマシ……」 (かなぁ……階がまだ上にあがるし窓も多いから逆に雷に近づくか?) 「いや、待って。まずいな」 「へ?」  震えた声が俺を見上げたのが声のトーンでわかった。 「もしかして、今この部屋施錠されてないか」  技術ビルは基本オートロック管理されていて、入るときは個人が持つ社員証コードで入室する。  この部屋はスマートキーの後付けで中から鍵を開けられないタイプになっていて、入室するときに自動ロックを解除してから入室すれば扉を閉めても勝手に鍵がかかることはない。  しかし、停電で一度落ちたのならその解除はリセットされているのでは……と、不意に体をドアのほうに向けると服が引っ張られて掴まれていたことを思い出す。 「ぁ、や……」  その声に一瞬息をのんだ。 (いや、ちょっと待て。冷静になれ、俺)  自分の中の雄な部分に触れられた気がしてたじろいだ。
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