22、鬼上司は気持ちを振り回してくる(side千夏)

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22、鬼上司は気持ちを振り回してくる(side千夏)

 二年ほど前から悩んで考えていたこの気持ちはまるで心の中で飼う風船みたいに、日を追うごとに膨れてはしぼんでを繰り返していた。  今風船が大きく膨らんでいる。頑張れない、その気持ちが胸を占めているとき。負の波が襲ってきていると感情的になりやすいし、それにより精神的に不安定になる。久世さんがいつか本社に戻るかもしれない、その気持ちが空気を膨らますキッカケになった。  一緒にいるほど辛くなる。仕事を任されるほど嬉しいのに、泣きたくなった。欲しかった信頼を自ら手放そうとする悔しさと虚しさから苦しくて逃げたくなった。  そう、私は逃げるのだ。仕事にも、久世さんにも。その逃げたい気持ちが余計に悲しい。いろんなことを言い訳に結局は逃げる、その事実が情けない。  開かれた報告書を閉じようとしたとき何気なく見た電子印。名前と一緒に日付が記載されるのでそれを見てぼんやりした思考が急にはっきりとする。その横に押された私の電子印も同じ日付で胸がドクンと鳴った。 (勝手に押し換えられた?)  胸が無駄にバクバクしてくる。  私は報告書を転送する前に自分で自分の電子印を押した。その電子印の日付が木ノ下さんと同じ日になるわけがない。電子印は社員番号さえ押せばだれでも勝手に開けて押せるものだけれど普通は押さない。印鑑を引き出しから出して勝手に押すのか?行為は同じことだ。  自分の仕上げた期日と先に仕上げた私の期日が合わないのが気に入らなかった?派遣の私が社員の木ノ下さんよりはやく終わらせていたと思われたくない?  黒いドロドロした感情が湧き出してくる。  こんなこと、些細なことじゃないか。勝手なことするんだな、そう思ってやり過ごせばいい。ずっとそうやって飲み込んできた。  でも。 (もう無理、馬鹿にされるのはもうたくさん)  会社のことならいい、決まりやルールのことならいくらでも飲み込んでやる。それは私にはどうしようもできないことだからだ。  でも私のことを好き勝手されるのはたまらない、私のしている仕事を無断で踏み荒らすな。それだけはどうしても許せない、私は私の仕事をしている。私にだってやり通したい仕事がある、気持ちが――あるんだ。  引き金になるには十分だった、胸の中の風船が――パンっ――と、割れた。
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