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24、年下の部下はやっぱり噛みついてくる(side誠)
「……好きなのに」
彼女の口からその言葉が零れ落ちて息が止まった。
「……仕事……大好きなのに……受け入れられない自分が嫌になる……私が……もう私を受け入れられない……」
今にも涙が溢れそうなその潤んだ瞳から視線を逸らせずにいた。俺自身の心臓も無駄に乱れて戸惑ってしまう。そこにいきなり殺気だった猫のように彼女が嚙みついてきた。
「あなたのせいだから!」
(俺のせい?どういう意味だよ)
「あなたが……勘違いさせるから!自分にうぬぼれて……仕事ばっかり……もういや」
「……それって俺が仕事振りすぎたから嫌になったってこと?」
「逆!仕事したいの!山ほど仕事もらってうれしかったの!」
逆切れされた。しかもその言い分がどうしようもないほど可愛いと思ってしまう。
「じゃあやればいいだろ、もっと仕事!いくらでも振ってやるよ!」
そう言い返したら大きな瞳から我慢できないように涙が落ちた。
それをキッカケにぼたぼたと大粒の涙が零れ落ちて、床に染みを作って広げていく。
「どうして……そんな簡単に言うんですか?なんで……久世さんは私にそんなことばっかり言うんですか!」
「仕事ができるからだろ!出来ないやつに仕事なんか振らないんだよ!当たり前だろ!」
だんだん苛ついてきた。
「なんで辞めたいんだよ、理由を言え。仕事したいのに手放してまで辞めたくなったのはなんで?俺はそれが知りたい」
そう言ったら彼女の眉がハの字に垂れ下がる。
「二年も悩んでそれでも続けてきたくせに、なんで今辞めるってなった?」
頑なに閉ざす口を開けたい。
悩んで迷った気持ちを吐かせたい。
泣くほど溜めた気持ちを俺にぶつけさせたい。
守れるかわからない、でも――受け止めてやりたい。
この気持ちはもう上司の域を超えている。
「前にも言ったよな?覚えてる?飲み込むのが正解じゃないって。吐ける場所があるなら吐け、我慢するな、いいから言え!俺にぶつけろ!」
そこまで言えば大粒の涙が弾けて……彼女の顔がぐしゃぐしゃに歪んで俺を見つめ返してくる。その時思った――あぁ、と。
「……もっと……認められたい……私自身を……評価されたい、でもそれは……出来ないから……諦めてたのに。どんどん欲が出て……久世さんと仕事して……久世さんの下で働いて……ただの歯車なのに勘違いした私が悪いんです!悔しくても、虚しくても割り切れてたのに……割り切れなくなった自分に嫌気がさしました!私が派遣を受け入れられなくなった、それだけです!」
震える手が口元からこぼれる嗚咽を塞ごうとしていて、その姿はますます胸を締め付けてくる。そしてより思うんだ、あぁ、俺は――こんな風に泣かせたかったわけじゃない。
守りたかっただけだ――彼女を。
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