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番外編ーその後のふたりー➁
軽く触れるだけのキスだったけど見下ろしてくる久世さんと目が合って余計に固まった。
「もう事務所戻るけど、ほどほどにして帰れよ」
そう言って立ち去ろうとする久世さんの制服を思わず引っ張った。
「あのぉ!」
「……なに?」
「……あ、の」
続かない言葉の代わりに制服の裾をさらにぐいっと引っ張る。勢いで呼び止めたけど言いたいことは何もまとめられていない。
「……その」
言いよどむ私の気持ちを察したのか行きかけた足を戻して目の前のキャスター付きの椅子に座ったらグイッと近づいてきた。
「なに?」
距離が近い。
近づかれると逃げたくなるのはイケメンに慣れていないせいか、腰を引くと笑われた。
「なんで逃げんの」
「――あんまり、定時後に近づかないでください」
「なんで?」
(いろいろ崩れてるからだよ!顔が!!)は、当然言えるわけもなく。
「そそ、それより!」
「はい」
「その、聞きたいことが、ありまして」
「なに?」
「聞きたいっていうか、確認っていうか……その」
黙って私の言葉を待つ久世さん。
(だめだ、顔面偏差値が高すぎる!!!)
自分の顔が赤くなっていくのが体温でわかるが、これ以上は発熱してしまうと思い、思い切って声に出した。
「私たちって今どういう状態なんですか?!」
一気に聞いた。言ってから息を吐き出して胸がバクバクしているのに、まだ久世さんは聞いてくる。
「状態?」
そこは聞き返さないでほしかったんだけど。なんなら察して欲しいんだけど。察してくれないかな?!頭いいんだから!
「すみません。ちょっと自分ではもう判断つけられなくて……その……私って……」
(久世さんのなんですか?)
って、一番大事なことを言いきれなかったぁ!!私のチキン!!
「えーっと。ん?どう思ってたの?」
逆に聞かれた。
「俺だけが勘違いしてるならただのセクハラになるんだけど」
「へ?」
「そうじゃん、職場で抱きしめてキスしてたらなんだろう。強制わいせつ罪?」
「それは……私が訴えないと罪にはなりません」
「なら良かった。じゃあ何を確認したいわけ?」
「勘違いってなんですか?」
聞かれてばかりも癪で聞き返したら予想外だったのか少し驚いたような表情を見せた後すぐににやっと笑ってくる。この久世さんのちょっと面白がってるような含み笑いが実はとても好きだなんて言えないけれど。
「そういうところがさ、好きなんだよね」
(――今さらっと好きとか言った、この人)
何を言われても言い返してやろうと思っていたのにあっさりとノックアウト。一瞬でKO、完敗、瞬殺。やられた――。
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