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とまどいの一カ月・2(side千夏)
低い声にびっくりして悲鳴を上げると、持っていたブラインドの紐まで引っ張ってしまって身体がぐらつく。
「あぶな……っ」
椅子から落ちそうになるところを久世さんに抱き留められた。
「すみませ……「バカなのか?」
「ごめんなさい……」
(怒り方よ、というか言い方よ。助けてもらって言うのもなんだが)
「呼べよ」
「え?」
「椅子に乗るとかマジでやめて」
「ごめんなさい」
もはや謝るしかない。
「そのカッコで椅子に乗るとかほんとないから」
カッコ??
「スカートでしょ」
(そうですけど)
「……この制服も……」
久世さんがそこまで言って言い淀んだ。何を言いたいのかわからない。女性社員はみんな同じ制服を着ている。なにも私が特別なものを着ているわけではない。
椅子の上に乗っているせいか彼より少しだけ背が高くなって見下ろす形になるのはなんというか新鮮で。抱き留められた腕の中で彼を見つめると、じっと見つめ返されて勝手に頬が赤くなる。
「あの……」
言葉を発したのと同時くらいにぎゅっと抱きしめられた。
制服の上からでもわかるくらいに彼の息がデコルテあたりにかかって心拍数が勝手に上がる。
今までにない立ち位置。久世さんから放たれる髪の毛の匂い。誰もいないとはいえ会社の会議室。
胸がドキドキしてくる。そのドキドキがさらに増したのは彼の手が腰に回ったせいだ。
「久世さん……あの」
(もうなんだか精神的にキャパオーバー、オーバーヒートしかけ、無理です)
「……だ、め」
ひとが来ちゃうかも……そう思って言ったのに久世さんの何かを煽ってしまったようだ。
「ダメってなにが?」
ニヤリと笑われた。
(なにって……何その顔。面白がってふざけてるの?!)
「人が……「来ないよ」
「誰かが次……「次は誰も予約してない」
全部言いくるめられる。
「でも」
「ちょっと黙って」
そう言って……口を塞がれた。
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