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06、年下の部下は噛みついてくる(side誠)
本社の品質管理から移動してきて慣れないことも多かった。
大学で化学をやっていたとはいえ、いきなり試験ばかりもしてられないし、前課長の引継ぎから溜まりまくってる報告書の承認をするのにデータを見たりしていたら時間がいくらあっても足りなくて。
部下の誰かに仕事を振るしかないのに適任がいないのが悩みの種だったが、依頼を回せば二日に一件くらいのペースで報告書を回してくる派遣の彼女に目を付けた。
測定値のばらつきもなくデータのまとめかたをみても無駄がなくてなによりミスがない。過去の試験結果を見たら値の精度の高さと再現性に驚いた。
実際業務で一番依頼試験件数を捌いているのが彼女だし、社員はほかの業務や案件を抱えているとはいえそれらの進捗状況が良いわけでもない。
つまり他の業務に手いっぱいで試験にまで手が回らないというわけではないのがわかる。そう思うと彼女の捌いている量が半端じゃなく多くてそれだけ仕事が早いのだろう。
試しに一度彼女に仕事を投げつけたら翌日には必ず報告をくれたので、仕事ができる子なのだと数週間で確信した。
「あの」
事務所で声をかけてきた彼女はどこかイラついているように見える。
(普段は割とスンッとしてるのに案外顔に出やすいんだな。おもしろ)
「なに?」
周りは結構俺に怯えて意見なんか言っても来ないのに興味深い。
「急ぎならそれを優先するのでちゃんと指示いただけませんか?」
「別に急いでないよ」
面白いくらいに応えてくるから投げつけてるなんて言ったらブチ切れそうだな、と思いつつ本音で返す。実際急ぎの案件でもない。
「空いた時間っていわれるとやりにくいんですけど」
「優先度は自分の仕事重視でいいよ」
「そういわれてもです」
「でも捌けてるじゃん」
いい返してくるから被せるように返すと噛みついてきた。
「ついでみたいにはできません!」
事務所内も変な空気になって、思わず吹き出しそうになる。とりあえず人目もあるから実験室に連れて行くとしぶしぶついてくる。
依頼の内容を説明していると依頼書をでかい目がじっと見つめている。
確かに彼女にはサンプル名さえもろくに伝えていなかった。彼女が文句を言いたくなるのもわかる。これからは正式に依頼として渡してやろうと決めた。
「負けん気強いよな」
笑って言ったら明らかにムカッとした表情でまるで殺気だった猫みたいだった。
それと同時にどこかでこの子を懐かせてみたいとも思った。部下として面白くて育ててみたくなった瞬間だった。
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