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後輩と異世界転移しました
「ねぇ」
「何ですか」
窓の外は怪鳥が飛び交う曇天の空。
私は執務室で書類を捌きながら後輩の彼に声をかけた。
「折角異世界転移したっていうのに何でここでも仕事しないといけないと思う?」
「そりゃここが魔王城で、僕たちは人手不足解消の為に召喚された人間だからですかね」
「普通さ、異世界転移ってもっと煌びやかじゃない?」
「知りませんよ。僕としては会社に残ってる仕事の行方が怖いですね。繁忙期前とはいえ相当な量ありましたから」
「この期に及んで心配するのは仕事なの?」
呆れつつそう言えば「結構大事ですよ」と返されてしまう。
ちなみに彼は同じ会社の後輩で私が教育係として面倒を見ていたのだが仕事の出来は群を抜いて素晴らしかった。
それ故に任される仕事が多かったため、彼はそれが心配で仕方ないらしい。
「ま、もし向こうの世界で時間が進んでたらその時は一緒に謝ろう」
「…貯金いくらあったかな」
「まさか解雇前提で考えてる?」
「当たり前でしょう」
会話をしながらも書類を捌いていく。
文字が読めるのは有難いけれど何にせよ仕事が多い。
パソコンが存在しないせいで全部紙なのが辛すぎる。
しばらく仕事を進めていると昼休憩を伝える鐘が鳴った。
手を止めると彼もペンを置いていた。
「やっと休憩だ~」
「パソコンと向き合う時間が無くなったとはいえ疲れますね」
食事は食堂でとるように言われているため部屋を出る。
この魔王城で働いている生物は漏れなく人外で、牛の頭をした二足歩行の生物や何とも形容しがたい生物、中には姿が見えない生物もいた。
しかし皆気さくで人間の私たちにも丁寧に仕事を教えてくれた。
あの時のギャップは今でも鮮明に覚えている。
「お!ミカとシュウじゃねーか!!」
「レオニダスさん、こんにちは~」
「こんにちは」
食堂に向かう廊下で狼の頭をした種族のレオニダスさんに声をかけられた。
見上げるほど背丈が高いし表情は読み取りにくいが、彼の尻尾は嬉しそうにブンブン振られている。
「仕事の調子はどうだ?」
「順調です。本当に、こちらに来てすぐ仕事について丁寧に教えてもらえて良かったです」
「そうか!そう言ってもらえて嬉しいな!!でも分からないことがあったらすぐに聞いてくれよ?」
「ありがとうございます」
彼は今から仕事のようで廊下で別れた。
食堂には種族ごとの食事が用意されており、恐ろしい見た目の料理もあった。
ちなみに人間用にはパンとスープ、サラダが用意された。
「じゃあ食べましょうか」
「うん」
向かい合わせに座り、食事を始める。
味はいいのだが何日もこれが続いているとなると流石に飽きてくる。
「あー…和食が恋しい…」
「和食ですか」
「ジャンクフードも恋しいけれどやっぱり和食が1番だよ。漬物も食べたい」
「んな無茶な」
しかし彼も同意する部分はあるのか、少し困った表情をしていた。
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