超・妄想【エイプリルフール】

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小さい頃にした、約束。 遊びの中の、冗談。 本気になんかしてない。 むしろ、願い下げ。 「真美ちゃんさ、ほんと綺麗になったよね」 よく行くファミレスで、目の前に座ってミックスプレートのハンバーグをフォークでつつく男は、柔和な目元を優しくさげてそう言う。 「透くん、よくそう言ってくれるけど……本心じゃないですよね」 チーズインハンバーグをメニューの写真みたいに切ってみたい私は、ハンバーグの真ん中にナイフを突き刺した。 「え、冗談だと思ってた?」 ハンバーグを頬張った透くんは、心外だと目を丸くする。 私のお母さんと透くんのお母さんが仲良しで、私が産まれる前から付き合いがあり、仕事で忙しい私の両親は、小さい私を透くんの家に預ける事がよくあった。 遊び相手になってくれたのは、五歳年上の透くん。可愛がってくれてるのは分かるけど、最近たまにセクハラっぽいのが混ざる時があって、複雑。 「ほんとに思ってるよ。昔から可愛いと思ってたけど、最近はお母さんに似てきて綺麗になったなぁって。背も延びたでしょ、大人っぽい笑い方するし、胸だってほら」 「セクハラ」 ほらね。 うまくハンバーグの中からチーズがとろりと溢れてきたのに、透くんを睨んだせいで見逃した。 「お年頃ってやつかな。赤ちゃんの時にはオムツだってかえてあげたのに」 「やーめーてー」 ナイフとフォークをぎりぎりと握りながら、睨み付ける。五歳しか違わないのにどうやってオムツかえるんだ、と思ったらおばさんがいなかった時にとっさにかえてくれた事が本当にあるらしい。やめて、恥ずかしい! 「ごめん、て。ほらロングウインナー半分あげる。許して?」 くくくっと肩を揺らして笑い、ほいっと私のプレートに乗せられた半分このウインナー。それを見て両手から少しだけ力を抜く。 今日だって春休み中の私にお昼ごはんをご馳走してくれると言って、来たんだけど。ただの優しいお兄さんだったなら、私も素直に甘えただろうな。 コロンとチーズの海に入ってきたウインナーにフォークを刺す。ぷりっと手応えがよくて、そのまま一口かじった。スパイスの香りと肉汁が溢れる。 「真美ちゃん、もしかして彼氏できた?」 舌を噛んだ。 痛がる私を見て、笑いながらペーパーナプキンを渡してくれる透くん。一口分のウインナーを丸飲みした私は白い紙を口元に当てて、頬を膨らませる。 「水、持ってくるよ」 透くんは優しくそう言うと席を立ち、ガラスコップを持って戻ってきた。ほら、と手渡された冷たい水を二口ほど飲んでコップを置くと、それがさっと目の前から消える。ゴクゴクッと喉を鳴らして、透くんが水を飲み干した。 「なんで飲んじゃうんですか」 「おれも喉乾いてたし」 ならもうひとつ持ってくればいいじゃない、と言いたいけど、言い返せば返すほど、言い返せないような言葉が返ってくるから、黙る。透くんは昔から口がうまい。舌先三寸口八丁、これだ。 「……彼氏なんていません」 冷めつつあるハンバーグを頬張る。透くんはチキンのグリルをナイフで上手に切り分けていた。器用だなぁ。
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