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「作り話……? 騙されているだと……? いったい何が言いたい!」
叫びながらアノードは、右手の剣を振る。
もちろん、まだ斬撃が届く距離ではなかった。だから魔王に対して斬り付けたわけではなく、ただ頭に浮かぶモヤモヤを振り払いたい気分で、それを行動に表したに過ぎない。
彼の頭の中に浮かび始めたのは、いわば疑念。魔王の言葉なんて信じるつもりはないのに、それでも気になり始めたのだ。
「我らの故郷には『勝てば官軍』という言い回しがある。伝説や伝承、歴史書というものは、勝った側が自分たちに都合よく改竄した話だけを残していくのだ。おそらく……」
語り始めた魔王の顔から、既に嘲りの色は消えていた。むしろ哀れむような表情になっている。
「……お前の話に出てきた『侵略者』というのは、我ら魔族を指し示しているのだろうて。しかし我らは、この世界に侵攻してきたわけではない。我らは元々、この世界で平和に暮らしていた先住民族。神々こそが、この世界に攻め込んできた侵略者だったのだ!」
侵略者たる神々に蹂躙され、多くの魔族がその命を落とした。生き残った者たちはこの世界を捨て、新天地を求めて旅立っていく。
そうして魔族を追い払った神々は、この世界を荒らすだけ荒らすと、それだけで満足したのだろうか。この世界には固執せず、神々も去っていく。
ただし、この世界を放置もしなかった。代わりの住民として、神々の僕たる者たちを残していった。
それが現在「人間」と呼ばれる種族だという。
「この桜という木々も我ら魔族と同じく、先住の植物。神々が侵略してきた際、我ら魔族と一緒に駆逐され、その数を大きく減らしたのだ。だから……」
魔王は改めて、桜の花に視線を向ける。その目には、深い悲しみの色が宿っていた。
「……神々が人間に与えたどころか、桜は我ら魔族と密接な繋がりを持ち、我ら魔族こそが愛でた花なのだ」
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