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魔王の口調が変わったことに気づいて、アノードはハッとする。
もうすぐ桜が散るというのは、推測ではなく、はっきりと確定した事実。魔王の言葉は、そのように聞こえていた。
まるで未来を予知したみたいに、断定的な言い方だったのだ。
さらに「まるで未来予知」と考えたのがきっかけとなり、魔王についてのちょっとした噂を思い出す。
魔王には、一瞬先の未来を予知する能力があるという。相手がどんな攻撃を仕掛けてくるのか、どう防御しようとしているのか、魔王には予知できるのだという。
そんな凄まじい特殊能力を持った魔王に対して、どのように戦うべきなのか……。
この瞬間、伝説の真偽も桜の由来も何もかも、余計な話は全てアノードの思考から消えていた。頭が戦闘モードに切り替わったのだ。
右手の震えも止まり、改めて魔斬剣を握り直す。
こうしたアノードの変化は、その心境も含めて、魔王の方でも察したらしい。
魔王も武器を構えたのだ。
片手で持っていた杖にもう片方の手を添えると、杖の先端に魔力が集まる。それは三日月型の光の刃として具現化し、魔王の杖を禍々しい鎌に変えていた。
それまで穏やかだったその場に突然、一陣の風が吹く。
生あたたかい風だった。魔王と勇者の頬を撫でるだけでなく、最後の桜を散らし始めるきっかけにもなっていた。
王宮の中庭で対峙する二人に、桜色の花びらが降り注ぐ中……。
世界の命運をかけた一騎討ちが今、始まる。
(「魔王と勇者が桜の前で」完)
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