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ふたりで過ごす夜
「何かあったらいつでも連絡してよ」
「うん。ありがとう」
「ちゃんと屋根のあるところに泊まるんだぞ」
幸ちゃんの車を見送って、僕らは今夜の宿を探すことにした。
「野宿と言えば公園だな」
「やっぱり野宿なの」
確かにコストカットは必要だけど、カプセルホテルとか素泊まりのところだってあるだろうに。
「俺は律とならどこでもいい」
「じゃあ、安宿でもいいじゃん」
「それと金の問題な」
レミに言われて、仕方なく自転車を停めた公園へ向かった。
「ここ?」
思ったよりも広い公園の片隅には、管理事務所のような小さな建物があった。もちろん施錠されているから中には入れないが、外壁と自転車置き場の間にぽっかり空いたスペースがあった。ぼろぼろの簾が立て掛けられていて、目隠しにもなっている。今のところ天気は心配ないけど、確かに屋根はあるし雨風は凌げそうだ。
「でも、布団がないよ」
「段ボールとか新聞紙って温かいらしいぞ」
コンビニで段ボールをもらい、寝床を整えた。小さい頃に、施設の裏の林で秘密基地を作った時のことを思い出して、わくわくしながら二人で並べていった。
明かりはないから日が暮れると真っ暗だ。
ついでに調達してきたお酒とおつまみのさきいかで、僕たちは出発を祝う二次会を始めた。本当は二十歳までお酒はダメなはずだけど、レミの堂々とした態度は僕ですら見惚れてしまうほどの名演技だった。
プルトップを起こして乾杯してから、恐る恐るひとくち飲んでみる。
「甘っ! ジュースじゃん」
「美味しいね。後味がちょっと苦いのがお酒ってことかな」
甘党のレミのチョイスでカクテルにしたのは正解だったかもしれない。レミは気に入ったみたいでごくごく飲んでいる。味の濃い焼き肉で喉が乾いたのと、昼間に汗をかいたのもあるのだろう。あっという間に缶を空けてしまった。それでお酒には満足したのか、今度はペットボトルのお茶を開けた。
「明日から四月か」
「うん。エイプリルフールだね。去年はたくさん悪戯を仕掛けたよね」
「ああ」
思い出したのか、レミのくすくす笑いが聞こえてきた。大柄な施設長さんが、おもちゃの蜘蛛に驚いてパニックになったのだ。そう言えば、あれは幸ちゃんがいた最後の年にも仕掛けたヤツだったな。
「嘘は一日中ついててもいいのかな」
「そんなにたくさんある?」
僕が呆れて尋ねるとレミは笑った。
「腐るほどあるよ。俺は嘘で出来てるから」
胸がずきんと痛んだ。時折見られる昨日までと違うレミに、僕はひどく戸惑っていた。
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