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「僕らもキャンプリーダーさせられたけど、弾けきれなかったな。幸ちゃんがいた時が一番楽しかった」
「そうか…」
沈黙が煙と一緒にどんどん吸い込まれていく。
当たり前だけど、僕たちは別々の時間を過ごしていた。最後に会ったのは確か去年の今頃だった。たった一年会わなかっただけなのに、僕らと幸ちゃんを繋いでいたものが、鮮やかな色を失くしている気がした。相変わらず彼は優しくて、僕らは彼が大好きで憧れているにもかかわらずだ。
今まで心地よかったものが、少しずつ変わっていく。新しいものとの出会いに思いを馳せるよりも、失うことへの寂しさの方が勝る。
これが 大人になるってことなのかな
映画やドラマでよく使われる陳腐なフレーズが、今自分に振りかかっていることに戸惑いを覚える。
ああ、それは本当に起こることなんだと実感した。
ぺらり、と音がして、ラミネート加工されたメニューをレミが手に取った。両面にアルコールの写真がずらっと並んでいる。
「幸ちゃん。飲もうよ」
「バカ。おまえたちはまだダメだろ。それに俺は車で来てるし教師だ。後でバレたらヤバい」
「バレなきゃいいって聞こえるけど」
「シャレになんないっつーの。おまえらに飲ませたら俺が怒られるんだからな」
「ちぇー」
レミはつまらなさそうにソファに寄りかかった。
「ほら。まだ肉が残ってるぞ」
幸ちゃんは苦笑いしながら、焼けた肉を僕たちのお皿に取り分けてくれた。
レミがトイレに立った時だった。幸ちゃんが真顔で僕に尋ねてきた。
「あそこでつらい思いはしなかったか」
「別に? どうして」
「いや…」
幸ちゃんはウーロン茶をひとくち飲んで口を湿した。さっきまでのにこやかな表情を消した彼に、僕もつられてぴりっと緊張した。
「施設にいれば、曲がりなりにも守られてると思ってたんだけどさ。そうでもないのかなって最近は思う時もあるんだ」
「それは何かわかるよ。僕らも少しは大人になったから。引っ越しも旅費もお金がかかるよね」
「金銭的なこともだけど、精神的な方が見えにくいからな。ああいう施設は第三者が入り込めないから、どうしても閉鎖的な空間になる。大人に言われると疑問に思わなかったり、逆らえないこともあるって聞くし」
「そう、なのかな…」
自分のことを振り返っても、そんなことは記憶にない。だけど…
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