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レミのこと
幸ちゃんはどう思うかな
僕はあのことを聞いてみようかと思ったけど、どう切り出していいかわからなかった。幸ちゃんなら話を聞いてくれるだろうけど、話していいことなのかがわからない。
自分のことじゃないからというだけでなく、それを口にすることで何かを壊してしまうんじゃないかとか、幸ちゃんがどう答えてくれるのかも不安になる。
迷ってるうちにレミが戻って来てしまった。
「二人で真面目な顔して、何の話?」
「施設で虐められたりしてなかったかって。でも、レミは大丈夫そうだな」
「ひでえな。俺を何だと思ってんの。こう見えても悩みのひとつやふたつ…」
「あるの?」
僕が思わず聞くと、レミはにっと笑った。
「あるよ。ないのは律だろ」
うまく答えられない僕を尻目に、レミはお皿に残っている肉とビビンバを、自棄のように詰め込んだ。また周りのざわめきだけが、上っ面を撫でるように流れていって、幸ちゃんがため息をついた。
「あんまりいい話を聞かないんだ。ちょっと気になっててさ。俺も遠回しに来ないでくれって言われたりして」
確かに去年の夏、幸ちゃんは面会に来なかった。仕事が忙しいって聞いてたけど、何だか話が違うな…
「もっと酷いとこも逆にいいとこもあるって聞くじゃん。俺らがこんだけ元気なんだから、そこそこいいんじゃないの」
「レミが指標ってのもねぇ」
「とにかく無事に『卒業』したんだからさ。残ってる奴らも元気にしてるよ」
「そんならいいけど」
「ごちそうさま!」
食べ終えたレミが両手を合わせた。
「おいしかった。幸ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。泊めてやりたいとこだけど、嫁さんが妊娠中でね。つわりでちょっと大変なんだ」
「結婚したんだ? おめでとう」
びっくりもしたけど、幸ちゃんならモテるからなと納得もした。幸ちゃんは照れくさそうに頭をかいた。
「ありがとう。実を言うと、順番が逆なんだけどね」
「やるなぁ。幸太郎も」
レミがにやにやしながら幸ちゃんをイジっている。でも、幸ちゃんは嬉しそうだし、僕はそんな彼はいい父親になるんだろうと確信もした。どこまでも彼の幸せが続いて欲しいと思った。
僕らの分まで。
泣きたくなるくらい、本気でそう思った。
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