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「そんな寂しいこと言うなよ」
「ははっ。何で律がしょげるんだよ」
屈託なく笑う彼の顔に、翳りは見られない。
だけど、昼間に窓から海を見つめていたあの横顔は、今まで見たことがないほどの憂いに満ちていた。
『あるよ。悩みのひとつやふたつ』
本当はいっぱい傷ついていたとしたら
本当の自分を隠してたら
僕が見てきたレミは
やっぱり嘘ってことになるのかな
一番近くにいて、誰よりも彼を知ってると思っていたのに、それが残念なのはもちろんだけど、レミが心の内を隠しているのも寂しかった。
ちょっと泣きそうになって、僕は慌てて話を逸らした。
「レミにぴったりな仕事が見つかるといいね。アパートの家賃も安くて助かったよ」
「ああ。でもいつかはその部屋だって、出ていくことになると思うけどな」
レミが平然と口にするのを聞いて、僕は背筋がすうっと冷えていく思いだった。昼間に感じたことが現実になる。軽くパニックになりそうで、思わず手にした缶を強く握りしめた。
「…僕を置いていくの?」
「そうじゃないけど、その場所に行かなきゃ出来ないことがあったら、律ならどうする? 自分が好きなこと、やりたいことだったら、手に入れたいと思わないか」
そんなこと考えたこともなかった。聞かれても想像すら出来なかった。
レミを失って僕は平常心でいられるだろうか。
彼を笑顔で送り出して、自分の夢をつかむ努力を続けられるだろうか。
レミがいつも そばにいてくれたから
僕は僕でいられたのに
僕は拗ねた口調でレミに突っかかった。
「わかんないよ、そんなの。レミはそれで平気なの」
「平気じゃないよ。でも行かなきゃいけない時はきっとくる。そうしないと、俺はおまえをダメにしてしまうと思うから」
「独りにされた方が、寂しくてダメになっちゃうよ」
甘えてひねくれる僕を宥めるように、レミは髪を優しく撫でてきた。
「うん。ごめんな」
そんな素直に言われたら、何も言えなくなる。
ずっと一緒にいられると思っていた。ただそれだけでよかったのに、それすらも叶わないなんて。
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