32人が本棚に入れています
本棚に追加
ロードサイドのファストフード店に入った。
だいぶ混んでたけど、二階の席を確保すると僕らはじゃんけんをした。レミがチョキで僕がパー。
「俺、チキンのやつ。カルピスソーダで」
「オッケー」
こういう店なら、メニューを指差せば注文くらいは出来る。
『レミがやってよ』
『こんなの簡単だろ。俺がいない時はどうするんだよ』
『いてよ。ずっと』
『甘ったれんな』
レミはこつんと僕の額を小突いた。
そんなふうにして時々、僕はレミに鍛えられてきた。
列に並んで注文と支払いを終えると、受け取り場所で番号を呼ばれるのを待った。揚げたてのポテトの匂いで、急に空腹を感じた。
そう言えばレミがどうしてもって聞かないから、朝ごはんの前に出発してきたんだった。レミが出発を一日早めたのも、荷物を何も持ち出さなかったのも、ただ僕がそばにいればいいのが理由だったら素敵なのにと思った。
トレーを両手に再び階段を上がって行くと、窓際で頬杖をついているレミが目に入った。
海を見つめているのだろうか。
とても綺麗な横顔のラインは、まるで現実味がなく、周りのざわめきに埋もれていた。不意にレミがどこかへ消えてしまいそうな気がして、僕は急いで彼に近づくと、隣の席にトレーを置いた。
「サンキュ」
笑顔のレミが僕の目を見て言った。
さっきの儚い雰囲気がキレイに無くなっていることを確かめて、僕は心の中でそっと息をつく。
「あ。エビ」
「欲しいんだろ。半分しよ」
いつもの反応に慣れっこの僕は、自分用にはレミが二番目に好きなものを頼んである。レミは人のものをよく欲しがるけれど、ちゃんと半分以上は手を出さない。変なところで律儀だった。
レミが僕の分を先に食べ始めたので、僕は彼のチキンサンドを手に取った。こんがりと焼けた肉のいい匂いとポテトの塩気が空腹感を加速させる。
僕らは並んで海を眺めながら、今日初めての食事をした。
二人の間に言葉はあってもなくてもよかった。後にも先にも、こんなに心地いい関係は他にないと思う。
さっきの彼の横顔を思い出した。
こんなにすぐ近くにいるのに、これから一緒に生活するのに、なぜだか彼を失うことばかり考えている。
幸せの裏返しなのかもしれない。
失いたくないと思うのは、今が幸せだからだ。
僕は初めて少し不安になった。
もし、レミがいなくなってしまったら…
どうしようもなく寂しくて
他の何かでは 埋められないだろうな
「半分もらった」
きっちり半分と、ほんの少しだけ多めに残した僕のバーガーが、レミから返ってきた。僕はチキンサンドを彼に手渡して、自分のにかぶりついた。食べ慣れたものなのに、今日はいつもと何か違う。
自由の味だ、と思った。
最初のコメントを投稿しよう!