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気まぐれな再会
外に出ると太陽がてっぺんにかかっていた。
気温はぐんぐん上がって、レミの服装がちょうどいいくらいの陽気だった。座っているだけの僕もジャンパーを脱いだ。
「今日はどこまで行くの」
「半分は無理かもな。三日に分けるか」
また海沿いに北上する。海岸線はなだらかに続き、夏休みは海水浴の人たちで混雑する波打ち際に、今はサーファーの影も見えない。
「ちょっと上から海が見たい」
レミがまた気まぐれを起こした。国道を渡ると分岐した登り坂が続いている。僕はぽんと荷台から降りると、レミと一緒に歩きだした。初めは緩やかだった勾配は少しずつ傾きを増していく。
海からの風が足元から駆け上がってくる。木立の合間から海面が眩しく目に映り、思わず目を閉じると風にそよぐ枝葉の影が切れ切れに瞼に届いた。
高台に位置する場所に、高校らしき校舎が見えてきた。日曜日なのに、生徒たちが連れ立って正門から出てくる。部活動が終わったようだ。つい最近まで、自分たちも彼らと同じ立場だったのに、何だかもう遠い昔のことのようだ。でも、仕方ない。僕らとは初めから何もかもが違っているんだし、その差は開く一方だ。
同級生にずっとそんな思いを抱いていたから、同年代なのに彼らがやけに眩しく見えた。
「せんせー、さよならー」
「おう。気をつけてな」
生徒に声をかけられてにこやかに挨拶したのは、若い男性教師だった。短髪で快活な笑顔が爽やかな印象の人だ。その顔に見覚えのある人物が重なった。
「…幸ちゃんだ」
僕が呟くとレミも足を止めた。
「ホントだっ」
彼を認めるやいなや、レミはハンドルを僕に預けると、ばっと道路を横切って彼の元へ走り出した。
「あ、っぶな…」
僕は一瞬、息を飲んで、左右を見てからレミの後に続いた。車の通りは少なくても、カーブと坂道で見通しは良くない。こっちがドキドキする。
「幸ちゃん!」
呼ばれた男性は驚いた表情だったが、すぐにレミと僕の面影をとらえてくれたのか、ぱっと笑顔になった。レミが幸ちゃんにぎゅっと抱きついた。
「レミ! 律もか」
「久しぶり!」
幸太郎さんは僕たちより六つ歳上で、施設で共に暮らしていた先輩にあたる。僕と同じように勉強を頑張って、教師になる夢を叶えた人だ。まさか、こんな近くにいたなんて。
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