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プロローグ
『玲海。この子は律って言うんだ。おまえと同い年だから、仲良くしてやってな』
草太さんはそう言ってレミと僕を引き合わせた。僕はまだ到着したばかりで右も左もわからず、誰にすがっていいのか、そもそも自分はここにいてもいいのかさえも不安だった。草太さんの背中に隠れておずおずと覗くと、はちみつ色の癖っ毛の可愛い顔と目があった。
レミ? 女の子?
『律か。キレイな名前だな』
にこっと笑ってレミは僕に手を差しのべた。
『俺はレミだ。わかんないことがあったら俺に聞け。誰かに虐められたら俺に言え』
『物騒なこと言うなよ。誰もそんな酷いことしないだろ』
草太さんが苦笑いした。
レミが綺麗な男の子であることと、自信にあふれててカッコいい頼れるヤツだとわかって、僕の緊張はたちまちほどけてしまった。
僕がこの養護施設に来たのは七歳になる年だった。両親に虐げられて育ち、最後には遺棄された。彼らがその後、罪に問われたのか、どこかで生きてるのかは知らない。もし、偶然に会ってしまったらどうしよう。初めの頃はそんなことばかり考えていた。
忌まわしい記憶は体と心にしっかりと刻みつけられ、夜毎に僕を眠りから引き剥がした。
叫び声を上げてパニックを起こし、呼吸の仕方さえ忘れてしまう僕を、レミは優しく呼び戻してくれた。
『ゆっくり息を吸って、吐いて。もう一回、ゆっくりだよ。そう。ほら、楽になってくるだろ?』
手をぎゅっと握られて、穏やかなレミの声に従うと、不思議なほど心が落ち着いてくる。涙でぐしゃぐしゃになった僕の頬を、レミはパジャマの袖でそっと拭ってくれた。それでもまだしゃくりあげる僕を抱きしめて、背中をとんとんとしてくれる。
耳元で彼が優しいメロディを口ずさむ。聞いたことのない旋律は子守唄のようで、僕は彼の腕の中で、母親から受けるはずの愛情を疑似体験したと思っている。
『グランマが死んでから、俺の毎日はおかしくなったんだ』
レミの優しい仕草は、きっとグランマから授けられたものなのだろう。たとえ彼女が亡くなってつらい思いをしたとしても、その愛情は彼の中にしっかりと根を張って、土台を護ってくれたのだと思う。
そして、僕はそんなレミに守られて生きてきた。
今日までずっと。
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