中編

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「とは言えだ。このままでは表層のやり取りしか出来ないだろう。そこでイカロス、お前の力で星神様と彼らを深く繋げるんだよ。お前自身は立ち合い人になり、内容を報告しなさい」 「分かった、婆ちゃん。ってことだけど、ククルルとカンナは良い?」 「ああ、良いよ」  ククルル達は了承した。イカロスはそれを受けて彼らに手を翳し、 「んじゃあ、行くよ――」  その瞬間に、ククルル達の意識は暗転した。 ◆◇◆◇    ――ククルルは原初の記憶を夢見ていた。  それは一雫の石の涙の記憶だった。星空を巡り行く彗星、箒星。  彗星は色んなところを旅して、色んな星を見てきた。  燃える星、静かな星、氷の星、消える星。  その中で一際輝く水の星があった。  なんて綺麗なんだろう。旅好きの彗星は好奇心の塊だった。だからもっと近くで見たいと思って、しかし勢いがあり過ぎたために、彗星は流星となってこの水の星の地上へ落ちてしまった。  しかも流星の宿す魔力は水の星にとって異物同然である。それぞれの魔力が反発し合い、その影響で流星は何千もの欠片となって散り散りとなってしまった。そこで流星の心も分割された。自我が崩壊し、地上に幾つものクレーターを作って、欠片達は眠りにつく。  そうして十年、百年、千年、一万年――どれだけの時間が過ぎたのだろう。誰にも見つからずにいたところ、ひょんなことから、一つの欠片がとある王に拾われた。  王はすぐに欠片の力に気付いた。  誰かに奪わる前にと配下達に他の欠片も集めさせ、やがて大量に手に入れたそれを目の前に王はほくそ笑む。これですべての欠片は自分のものだ。だが、割合で言えば半分にしか満たなかった。彼はその事実を見落としたまま、欠片を用いてあるものを作り出した。  ――石の塔だ。 (そうだ。そうやって僕は生まれたんだ)  その塔がいつ、誰が作られたのか、誰にも“知られていない”けれど。  でも“知られていないだけで”、ククルルは――塔だけはちゃんと覚えている。勿論、流星の欠片だった時の記憶なんてなかったし、まさか自分が元々そういう存在だったとは思いもよらなかったが。  その建造方法だってわかっている。  手段はたった一つ。魔法。欠片をそれぞれ岩のように大きくして、レンガの形に削り、組み上げた。  その役割は兵器――当時、魔工学と呼ばれる魔術分野があり、その技術の推を集めて作られた生物兵器の生産工場こそが石の塔の正体だ。  しかし、塔は欠陥品だった。誰かが一つ、それも重要なパーツを担う欠片を盗んだためだ。おかげで塔は肝心な時に役に立てなかった。やがて王は戦争に敗れた。  王国は滅亡した。“カンナ”という国の名前も、地域名として残るだけだった。  幸い塔は壊されなかったが、それでも無念だったし、悲しかった。  だって道具は、使われてこそ存在意義を果たせるのだから。ただの役立たずは何の意味もないのだから。それは親の期待に応えられなかった子供と同じ。ククルルにとって人間は親だった。  だからこそ、人間を見守り、側にいるのが幸せだった訳で。  しかし、今のククルルは石の塔ではなく、石の巨人だ。  誰もがククルルを怖がり、更には流星だった頃の名残なのか、世界を旅したいという個人的な願いが生まれてしまっている。  間違いなく道具としてではなく、ククルルとしての自我に目覚めつつあるのだろう。  だからこそ、どれが大切かなんて分からない。どれもククルルにとっては重要で捨てられないもので、天秤にその重しを乗せても一方に傾かない。 (じゃあ“僕”と同じ、カンナはどうなんだろう――)  そう思った途端、記憶が別のものに映り変わった。  もう半分残った欠片達の記憶。魔術師の集団がその欠片達を蒐集していく。  やがて彼らは集め終えると、王のようにほくそ笑んだ。これですべての欠片は自分達のものだ。  だが当然、半分なので、流星の魔力は復活せず。  代わりに出来上がったのは、演算装置。  賢者の石と呼ばれた、星の欠片を凝縮し、一つの赤い宝石にしたもの。研究の結果、偶然生まれた産物なれど、魔術師達は狂ったように喜んだ。  これこそが、魔法の深淵へと至る鍵――だがそこに宿る意思など気付かず。ただただ魔術師達――「お父様」のためだけに、それが役立ちたいと思っていることも気付かず。  魔術師達は様々なことを演算装置に教え込んだ。  そしてある日――演算装置の前に、「お父様」の中でも唯一の女性がやってくる。 「お願い。“お父様”を悲しませたくないの。死にゆく私の代わりに、どうか私のフリをする人形を作って頂戴」  ――だから、“なった”。
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