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それなのに――ククルルは、どうしても思ってしまうのだ。
(人間に会ってみたい、話しをしてみたい。だって、僕はもう動ける。自分の意思で喋ることが出来るから)
だから、もしかしたら。
ずっとずっと望んでいたことを、叶えられるのではないか。
昔以上に人と繋がり、笑い合うことなんかも出来て。
呪いのように運命に縛られるのではなく、この名前の通りに、自由に生きれるかもしれない。
それに、ここは大切な場所だけど、良い加減同じところにいるのも飽きてきた。
最初は近場に行くだけでも、視点が変わって面白かった。
しかし、次第に行動範囲が広がる内に新鮮味が薄れ、体を動かせる楽しさも相まって、ククルルはもっと遠くへ行ってみたいと思うようになったのだ。
特にカンナが時々話してくれた“海”とか“火山”を見てみたい。
きっとカンナと見るその光景はとても綺麗だ。
カンナといるといつも楽しいから、間違いない。
(ああ、行きたい、見たいなあ)
日に日に思いは強まるばかりだ。
ククルルは思い悩んだ。
長い間、悩んで悩んで……ある時、思いきってカンナにその事を話してみた。
すると案の定、カンナは反対した。
「いけないわ、ククルル。私はともかく、ククルルが危ない。ククルルの体は大きいから……」
「ならば、カンナ。僕の体を小さくすることは出来ないか? 君と同じような小さな体だ。そっちの方が何かと都合が良いことも多いだろう」
「……それも出来ない」
「何故?」
ククルルは問う。
「魂にはそれに見合う器というものがあるの。元々貴方の魂は大きすぎるわ。貴方の体を小さくした途端、貴方の魂は弾けて消えてしまう。これは仕方がないことなの。だから、ククルル。このまま一緒にいましょうよ。今のままでも十分楽しいじゃない。外の行く必要なんか、何処にも――」
「――カンナ。君は僕に、夢を諦めろと言うのか?」
「……」
カンナは黙ってしまった。
それが答えになってしまった。
ククルルは思わず軽蔑した眼差しを向けていた。
それは初めて認めてくれた相手から、否定されてしまったからかもしれない。
普段ならば言わない酷い言葉もポンと飛び出してしまう。
「カンナ、君は無責任だな」
「っ!?」
ショックを受けたようにカンナがビクりとする。
ククルルの怒りは止まらない。
「勝手に助けて、僕に体を持つ喜びを教えて。その上で僕が今までどんな思いをしてきたか知っているくせに、あんまりじゃないのか? ……これならば、僕のことを最初から見捨てていれば良かった。君はどうして、僕にこんな残酷なことをする」
「それは……だって私は……」
いつもは明るいカンナが、この時ばかりは激しく動揺していた。
目を左右に泳がせている。
ククルルはそんなカンナを見下ろし、やがて彼女の元を離れた。
その顔を見たくなかった。
しかし、数日後。
その頃になると良い加減頭も冷めてしまった。
ククルルは勢い任せに言ってしまったことを後悔する。
なんて酷いことをと、頭も抱えた。
大体、カンナの言っていたことは、大方が正論じゃないか。
しかもこれまでの彼女の気持ちも考えなかった。
(カンナは僕と正反対なのに)
……そう。
カンナはククルルと違って、ここにいたがっている。
カンナにとって、この小高い山はやっと見つけた安息の地なのだ。
そしてククルルは唯一無二の理解者であり友達。
カンナにはそれだけがあれば良いのだろう。
きっと、他には何も望んでいない。
何かを掴むことを諦めてしまっている。
それは彼女の異常性に起因している気がした。
ククルルでさえ分かるのだ。
カンナは普通の人間ではない。
半年は一緒にいるが、彼女は一切食事を取らないし、排泄もしない。
髪も爪も伸びない。寝たりはするけれど体力は無尽蔵だ。
他にも違和感は沢山。
そのために迫害を受けてきたのだろう。
ククルルはなんとなくカンナの正体に気づいていた。
彼女が何故ククルルの声を聞き、助けたのかも。
すべてが正しければ、余計にククルルを心配するのも道理に合っている。
「……」
ククルルは空を見上げた。
いつの間にか夜になっていた。
まん丸なお月様に、無数に瞬く星々の煌めき。
なんて綺麗なのだろう。
今、手を伸ばせば届くだろうか。
前はそんなことを思いもしなかった。
『ねえ、ククルル。知ってる?』
カンナの言葉を思い出す。
『あの月は、実はあの星達と同じなんだって。この大地も、虚空に浮かぶ星屑の一つなのよ』
ククルルは驚いた。
嘘だと疑ってしまう。
『それは本当なのか、カンナ。だって大きさも、明るさも、全然違うじゃないか』
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