前編

7/7
前へ
/16ページ
次へ
 カンナはそれに振り回され気味だったが、口元は微笑んでいた。  そうして、その日カンナは子供達と一日中遊んだ。  すっかり打ち解けたのか、その後も彼らと交流を積み重ねていった。  やはり、子供から仲良くなるという判断は正しかったようだ。それでも彼女の人間不信を考えると、ある意味奇跡のようなものなのだが。  やがて子供達はカンナの存在を知ってもらおうと、比較的年の近い数人の若者達を引っ張ってきた。朗らかそうな人達だった。  そんな彼らも、子供達ほどではないが、時間をかけずに親しくなる。だが中にはカンナを訝しがるものいて、君は一体何者だと尋ねた。  するとカンナは頃合いとばかりに言った。 「私は異邦の魔術師よ。大国から逃げてきたの」 「大国? それはご先祖様達を迫害したという、あの大国かい? しかし魔術師というのは……?」 「……こういうことよ」  カンナは分かりやすく伝えるために杖を掲げた。  すると静かに大気中の魔力が震えた。  海から巨大な水柱が幾つも立ち上る。そこから幻想的な水の龍が飛び出し空を泳いだと思ったら、今度はぐるりと互いにぶつかり、弾けて大きな虹を創った。 「わあ……」  誰もが目を奪われる。  カンナはその後も次々と魔法で綺麗な光景を見せた。  炎の精霊を踊らせてみたり、草原に花を咲かせてみたり。  それは明らかに超常的な力だったが、警戒心は良い意味で薄れているようだった。  そろそろ良いタイミングだ。  カンナは最後に言った。 「実は皆に隠していたことがもう一つあるの。……村の人達も、一緒に連れてきてくれると嬉しい」  既にカンナの存在は村中に広がっている。  彼女のことをどうするか、大人達でも意見は割れていると聞く。  子供と若者達は顔を見合わせ、こくりと頷くのだった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加