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中編
昔々、星の彼方より一雫の涙が落ちてきた。涙は分たれ、欠片は世界中に散らばった。
その欠片には不思議な力があったという。
強大な魔力を操る力。
その力を手にした時、人はどうなっただろうか。
不老不死? 風紀栄華?
欠片は所詮欠片である。それを使う者次第。
――道具と何も変わらないのだ。その本質は、何も。
さあ果たして、待ち受けるのは悲劇か喜劇、どちらなのだろうか――
◆◇◆◇
その日、村中の大人が集まり、話し合いが行われた。中心にいるのは族長や要職に付く高い位にいる者達だ。
彼らはカンナのことについて考えた。
ある者は言った。
「大国から逃げて来たのだ。あまりにも不憫だ」
またある者は言った。
「よく分からない相手は怖い。追い出すべきだ」
彼らは平和ボケした村民だ。しかし閉鎖的な側面もあり、カンナという未知の存在に怖気付いていた。どう対処すれば良いかも分からないのだ。
そこで全員が言った。
「ここは巫女婆様にお話を伺おう」
巫女婆様とは、この村の族長より偉い司祭である。
既に齢八十を超えるが、一度外に行った経験もあり、思慮深かった。
村の最終的な意思決定権を持つ者でもある。
「そうさね……」
巫女婆様は深く悩むように、顎に手をやった。
後ろを見ると、室内には簡易的な祭壇があった。
かけられたタペストリーには流星を現すシンボルとそれを星図のように取り巻く天使と悪魔の子供達が描かれていた。
彼らの宗教、星神教において、天使は善を、悪魔は名の通り悪を司っている神である。彼らは生と死を司り、星神たる流星と共にこの地上に降りてきた。そしてその流星――即ち星の石たる隕石の欠片を祭る村人達は、死しても天使と悪魔が生み出す輪廻の輪に回帰できると信じられていた。
「この場合、星神様ならなんというか……」
と、巫女婆様は呟いた。
実は巫女婆様だけは知っている。
実際に隕石の欠片を核に、この村一帯は結界の魔術で隠されているのだ。そのため百五十年以上あまり、村民達は大国の目から逃れる事が出来ていた。しかし今、その結界に、易々と侵入者が入り込んできている。普通ならあり得ない事態だ。どんな者であれ弾いてしまうのが、結界の効果なのに――
(つまり考えられることは一つだけなんだろうね。星神様がお認めなれたか、はたまた縁があったから通られたのか……)
ともかくその“何か”が、カンナにあったに違いない。
それを実際見てみないことには判断を下せないだろう。
巫女婆様は結論を出した。
「じゃあ、カンナって子に顔を合わせてみようかねぇ……」
◆◇◆◇
そうして、次の日である。
まだ日も高い内に、巫女婆様とその側近達は指定の場所――広い草原地帯にやってきた。
そこではカンナが待っていた。巫女婆様達を見ると、一瞬緊張しているように顔を強張らせ、だが開口一番、まずは感謝を伝えた。
「ありがとう。こんな見ず知らずの私に会いに来てくれるだなんて。とても嬉しいわ」
「ほう……外の奴にしちゃ礼儀正しいね」
巫女婆様は意外と謙虚な態度に感心した。
それから知人のように挨拶を返す。
「ご丁寧にどうもね。それでアンタがカンナとかいう奴かい?」
「ええ。貴女は?」
「私の名前はジェシさ。巫女を務めている」
「ジェシ……」
「アンタが仲良くなった子とおんなじ名前だろう? この村では良くある名前なんだよ。ややこしいなら巫女婆様で構わない。皆からはそう呼ばれている」
「ならば私も巫女婆様と。その方が親しみがあって良いわ」
カンナは深く頷いた。
「ところでカンナや。後ろにいる奴は何かな?」
既に巫女婆様は、“その気配”を感じ取っていたらしい。単刀直入に聞いてきた。当然、側近達は訳も訳も分からず首を傾げたが、カンナは苦笑いを浮かべ――
「やはり、隠し切れないわよね」
カンナは杖を振り上げ、魔術の呪文を唱えた。すると迷彩が解除され、その巨体の姿が現れた。そこにいたのは大きな石の巨人――ククルル。
不用意に怖がらせないよう、カンナが子供達と遊んでいる間、ここでずっと待機していたのである。まったく動かなかったので隠れるのは容易かった。
しかし巫女婆様達からして見れば突然の出来事だ。皆あんぐりと口を上げ、中には硬直を通り越して腰を抜かしている者までいた。……やがて、一番早く動揺から抜け出したのは巫女婆様だった。やはり、少しだけ驚きを隠せずに、
「いやはや……、何かあるとは思っていたけど、こりゃたまげたね。アンタ、何者なんだい?」
「ククルルという。カンナの連れ添いだ」
「当たり前のように喋るんだね」
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