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これまた驚愕し、息を飲む巫女婆様。ククルルに似たゴーレムという魔造生命体もいるが、返答を返す高度な知性なんて聞いたこともない。
「それにデカ過ぎるし、完成度も高過ぎるし……本当に出鱈目だよ。まずはカンナ共々、少し話を聞かせてもらうよ」
巫女婆様は大胆にもククルル達に近づいて、これまでの経緯を聞いてきた。ククルル達は想定していたので、あえて不利益な情報は伏せた上で、話をした。
自分達は人間でないこと。大国から逃げてきたこと。先は海があるため立ち往生していること。
一応、事情はなんとなく分かったらしく、側近を含めて巫女婆様達は納得した顔をした。
「……成る程ねえ。でもまだ怪しいねえ」
しかしそんなことで簡単に信頼してくれる訳もない。
全員の瞳には警戒の色が強く出ていた。
カンナは言った。
「当然の反応だわ。私達を信じろという方が無理だもの。でも何もするつもりはないし、ただここにいさせてくれるだけで良い。何だったら村を守るために力を貸すわ。私達にはもうここしかないもの」
「ならば実際にそれを示しておくれ。私達はこれからアンタを見定めるさね」
「どうやって?」
「付いてきな。案内するよ」
そう言って巫女婆様は、やはり石の巨人と少女という怪しい二人組を相手に堂々と背を向け、ゆっくりと歩き始めた。そして巫女婆様のそんな態度に信頼があるのか、何も言わず大人しく付いて行く側近達。ククルルとカンナは顔を見合わせ、戸惑いつつも後を追った。
やがて辿り着いたその先には、ククルルより少し小さな、だが大きくて立派な石造りの神殿があった。扉の前には男の子が一人待機している。見ただけで巫女婆様とそっくりなのが分かった。孫なのだろう。
そして彼女の血を引く影響なのか、男の子は驚きつつも怯える様子もなく、感激するようにククルルを見上げていた。
「スッゲー、何こいつ! 婆ちゃん、婆ちゃん、何なのコイツ、スッゲーデカいよ!?」
「こら、あまりはしゃぐもんじゃない。客人に失礼だろ」
巫女婆様は威厳に満ちた声で孫をピシャリと叱った。
男の子は、はーい、なんて不満そうに返事をする。
「こいつはイカロスだ。息子夫妻の忘れ形見でね、神事の手伝いをさせている」
「イカロスです。よろしく!」
元気いっぱい、男の子――イカロスは飛び上がって挨拶をする。
ちょっとヤンチャな子のようだ。
「ああ、よろしく。僕はククルル」
「私はカンナ」
「ククルルにカンナだね。なんかカンナもすごいね。すごい金髪に、すごい杖」
「……」
悪い気はしないが、ククルルの時と比べて微妙に反応が薄かったので、ちょっと不服そうにしているカンナである。
とまあ、そんなことはともかく、話を戻すとして、どうしてこの子がここにいるのか、祖母の巫女婆様にククルル達は視線を向ける。
するとすぐに答えを教えてくれた。
「ここは星神様が座す村外れの神殿だ。我々司祭の一族は、神殿を介して星神様の意思を感じ取り、この村を代々守ってきた。特にイカロスは同調率がとても高いんだ。コイツに星神様の意思を確認してもらう」
「そうなんだよ。だからね、星神様とお話して、ククルル達がここにいても良いよって、許可をしてもらうんだ。そうすれば無事、俺達は仲間だよ」
祖母に続いて孫が補足してくれた。
が、ククルルとカンナは星神のことなど知らない。独自の宗教と予想はつけても、声や意思と言われて不思議に思う。しかし無機物なのに自分達も心を持っているのだ。そういう超常的な存在がいたとしても、なんらおかしく――
(……なんだ? ……今、頭の中に)
その時、不思議な音が聞こえた気がした。
明確な熱を持ち、誰かが鼓膜の更に奥から話しかけてくるような感覚。
(これは――声?)
間違いように思う。高くて、少しあどけなくて。
言葉を紡げる程の知性は感じられないが、微弱ながらその意思は本物。
まるで感情が本人のように流れ込んで来る。
「嬉しい? 歓迎?」
「……あれ? ククルル、今なんて?」
「……誰かから声をかけられてる」
ククルルが答えると、皆びっくりしたような顔をした。
「馬鹿な! 声が聞こえるのはイカロスただ一人なのに!」
しかし、そこでもう一人が手を挙げる。
「私も同じよ。声が聞こえる……随分と優しい子みたいね」
「あらまぁ、カンナもかい。こんなのはあり得ない……とは言えないねえ」
そもそもここにいる時点で大分おかしいのだから。巫女婆様は意味深な視線で瞳を細めた。
「恐らく、星神様が話しかけられてきてるのだろう。アンタ達に友好的であられるようだ」
「星神様が……?」
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