06.グループデート

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「……本当に付き合えばいいじゃん」 「え?」 龍くんがぼそりと呟く。何を言われたのかわからなくて、私は目をまるくしたまま龍くんを見た。 「俺たち」 「ど……え、な?」 動揺のあまり、まともな言葉が出てこない。どういうこと? 「だから、俺を本当の彼氏にすればいいじゃんってことだよ」 丁寧に説明をされても、理解はできない。言っている言葉はわかるのに理解ができないなんて、初めての経験だ。 龍くんがまじまじと私の顔を見つめてくる。目をそらせないほど近づく。 「……龍、くん?」 彼の鼻先が私の鼻先にふれる。近すぎる距離に心臓はありえないほどバクバクと脈打ち、呼吸が浅くなる。 息がふれるほど近づいたその時、きゅう~と可愛い音が聞こえてきた。瞬間、龍くんがぴたりと止まり、距離が一定になる。 「……腹減った」 龍くんは呟くと、箸を手に取りお弁当を食べ始める。私はまだ呆然としたままだ。 (今、何をしようとしたの? まさか……キ、キス……?) そこまで考えてしまって、身体がカッと熱くなる。 「……真っ赤」 ばくばくとお弁当を食べている龍くんは私を見て笑った。 「なっ……ひどい!」 龍くんのうれしそうな顔を見て、わかった。 からかったんだ。ひどい。ひどすぎる。 (龍くんは女遊びしてるから慣れてるんだろうけど!) 妙な怒りさえ込み上げてくる。でも不思議なことに、龍くんに怒る気にはなれない。 「ごちそうさま」 「う、うん」 私は動揺で、なかなかお弁当を食べ進めることができないでいた。龍くんはお弁当を閉じ、ランチョンマットできれいに包み直す。 立ち上がると、振り返った。 「……春菜。さっきの話、考えといて」 「え……」 返事をする前に、龍くんは立ち去ってしまった。 さっきのって、付き合うって話? 私をからかってるんじゃなかったの? さっぱりわからない龍くんの行動に、自分にも作った豪華なお弁当を食べきれる気がしなかった。
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