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「彼氏のフリしたのに?」
「……だって……」
キスなんて、いきなりいろいろと飛び越えている。
「……龍くんって、そういうの慣れてるの?」
だからそんなことを言うのだろうか。聞きたくはなかったのに、つい口から出ていた。
「……慣れてるわけないだろ」
ふと、頭の中に前に一緒に歩いていた女の先輩が浮かぶ。あの人と何かあるかはわからないけれど、龍くんの友だち関係はまったく知らないので、そういうことがあってもおかしくはない。
あのことがあって、否定する龍くんを完全には信じられないでいた。
「……じゃあ手つないで寝る。それならいいか?」
「……それくらいなら」
キスをするより、抱きしめながら眠るより、簡単なことのように思えた。それならできそうだ。
身体を離し、二人で仰向けになる。そっと手を掴まれ、ただ握るだけではなくて指を絡めた。
龍くんの指はごつごつしていて、硬い。友だちやお母さん、昔つないだお父さんの手とも全然違って、ドキドキした。前に手をつないだ時よりも龍くんの手の隅々までを感じてしまって、ただ抱きしめられているよりも身体と身体が密着しているような気になる。
でも抱きしめられていないおかげで、このうるさい鼓動の音はきっと龍くんには聞こえない。
「……おやすみ」
龍くんの声が暗闇に響く。
「おやすみなさい」
返事をして、ゆっくり目を閉じた。
眠れそうにないなと思いながらも、疲れていたせいか、すぐに微睡みの中へ落ちていった。
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