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「だから、本当にすればいいのに」
「え?」
「俺と付き合って、嘘を本当にすればいいだけだろ」
また、その話。
龍くんは前もそんなことを言っていた。前はひどく動揺してしまったけど、2回目はそうはいかない。
「それはもういいってば……」
「……もし、菅原に本当のことを話してダメになるような友だちなら、それまでってことだろ。俺なら大切な友だちが嘘をついて悩んでたら、話してくれたらうれしい。もし春菜が逆の立場だったらそう思うだろ?」
龍くんの真面目な言葉が心に沁みていく。
もし美玲が私みたいに嘘をついていたとしたら、正直に話してくれた時、きっと私は怒るなんて感情は出てこない。そう考えたら、少し気持ちが楽になった。
「……ありがとね、龍くん」
「春菜、可愛い」
返事としてはおかしい言葉に、ドキッとする。
「……な、なに急に! からかうのはやめてよ」
「からかってないよ」
「……え?」
いつになく真剣な表情に吸い込まれる。
「……じゃあな、勉強ありがと。また教えてくれ」
龍くんは勉強道具を片づけ、立ち上がった。私は呆然としたまま、彼を見つめていた。
ドアが静かに閉まる。
「……教えてもらったのは私のほうだよ……」
もう龍くんはいなくなったけれど、ぽつりと呟く。
龍くんの言葉が胸に響いて、ずっと残っていた。
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