837人が本棚に入れています
本棚に追加
「……嶺人さんは本当に私が好きなのですか。傷を負わせたから、責任感でそう思っているだけなのではないですか?」
「そんなわけがあるか。全く」
呆れたように答えて、のろのろと嶺人が美雨の上から退いた。隣にどさりと長躯を投げ出す。
「俺はあの事故の前から……初めて会ったときから美雨が好きなんだよ」
ベッドに寝そべったまま、互いの視線が絡んだ。振り絞るような嶺人の声に、美雨は胸を衝かれる。
「初めて、会ったとき……」
記憶を探るが覚えがない。たぶん何かのパーティーで会ったのだと思うがどうだったろうか。
不可解そうな美雨の表情に、嶺人が「忘れているのは知っている」と悲しげに笑った。
「高校のときに学園祭があっただろ。俺は写真部で……企画展示を見に来た美雨が、俺の作品を綺麗だと言ってくれたんだ」
「……あれっ?」
眼裏に閃くものがあって、美雨は声を上げた。
「熱帯魚の写真の先輩? あれは嶺人さんだったのですか?」
「そうだ」
嶺人は端的に応じ、感慨深げに囁いた。「やっと思い出してくれたか」
一方、美雨は過去の思い出をたぐりよせ、懸命に点と点を線で繋げていた。急に色々なことが腑に落ちて、固いもので頭をぶん殴られたような衝撃に見舞われる。ベッドの上でワーッと叫んで丸くなりたくなった。
(それじゃあ、今までの何もかもが……!?)
最初のコメントを投稿しよう!