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そして二人はいつまでも幸せに
美雨が姉の美波と会ったのは、岬元帥の誕生日パーティーの席のことだった。
パーティーは巨大なクルーズ船で行われ、夜に横浜港を発って、朝方に神戸港に到着するスケジュールである。
「久しぶりね、美雨。元気そうでよかった。結婚生活は順調?」
夜の海を見渡せるラウンジで、にこやかに美雨の手を取る姉に含みはない。心底から美雨の幸福を喜んでいるように見える。
美雨もにっこり笑って頷いた。
「美波姉様もお元気そうで良かったです。私は元気ですよ、嶺人さんも優しいですし」
「……あの岬嶺人が」
嶺人の名を出した途端、美波の雰囲気がスッと冷えた。悔しそうに歯噛みし「私、美雨にはもっといい男がいると思うのよね」と舌打ちする。そんな姉を見るのは初めてで、美雨は思わず噴き出してしまった。
「嶺人さんから聞きましたが、本当に相性が悪いのですね」
「そうよ。あの男の、この世に思い通りにならないことはありません、って面が嫌いなの。実際何でも思いのままだもの」
「そうでもないと思いますが……」
確かに大体のことを上手くこなす嶺人だけれど、それだけではないと美雨はもう知っている。曰くありげな美雨の反応に、美波が片眉を上げた。
「ふぅん? まあ、美雨に関してはあの男も筋書き通りにはいかないかもね。それくらいでちょうどいいわ。この結婚の良いところの一つね」
「他にも何か?」
「もちろん。もう一つは、あの高慢な男に私を『お義姉様』と呼ばせられること」
ドリンク片手に高笑いをする姉に、美雨もつられて肩を揺らす。思えば、もうずっと美波をまっすぐに見たことがなかったかもしれない。
「そして最後の一つ。——美雨、幸せになってね」
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