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ラウンジで美波と話し込んでいた美雨は、入ってきた人影にパッと顔を上げた。
「あっ、嶺人さん!」
小さく手を振ると、嶺人が微笑み、足早にこちらへ向かってくる。美波が「信じられないくらい甘々な顔してるわね……」とぼそっと言った。
「俺が離れている間、何か不自由はなかったか?」
「大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます。……ああ、でも」
美雨は口元に手をやり、ひっそり眉根を寄せた。
「先ほど停泊したとき、少し騒がしかったような……何かあったのですか?」
「ああ、美雨が心配することじゃない。単に体調不良者が出たんだ。今はもう病院に搬送されて大事なしとのことだ」
「そうだったのですね。それなら良かったです」
納得する美雨の横で、美波が意味深な目線を嶺人に投げる。だが嶺人は綺麗に無視した。
「パーティーも終わった。部屋に戻ろう」
「はい。それではおやすみなさい、美波姉様」
杖をついて腰を上げる美雨に、美波がひらひらと手を振る。
「ええ、おやすみ美雨。……私の部屋番号はさっき教えた通りだから、何かあったら逃げてくるのよ」
「何もありませんよ?」
美雨がきょとりと小首を傾げると、嶺人は呆れたようにため息をついた。
「よく本人の前で抜け抜けと言えるな」
「本人の前だからこそ、よ。私の妹を泣かせたら許さないから」
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