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彼と私の名前
「まっぶしっ!」
やっと慣れてきた目に容赦なく夏の日差しが襲いかかった。
思わず手を翳して気づく。
「声、変。手も、大きくてがっしり。」
わからない。まだ頭も視界もぐるぐるしてる。
それよりも、私、どうなったんだ?
トンッ!
「あ、すみません!」
歩いてきた人とぶつかってしまった。大通りといえど人通りは多く前を見通せる状況じゃない。
それなら、と素早く人並みから外れて道の両側に並ぶ屋台達の隙間を陣取る。
ちゃんと、冷静になろう。驚いていても何かを思い出すわけじゃないんだから。
そう、目を瞑って集中しようとした時だった。
今までの空っぽで何者でもなくなってしまった気持ちを埋め尽くすようにバラバラッと記憶が落ちてきた。
溺れる。咄嗟にそう思った私は堪えきれず目を開ける。
「はぁっ、はあっ、はぁっ、」
なに、今の。記憶?
そう、そうだ。記憶だ。
先程私を押しつぶそうとしていたのはバイラス家次男、騎士見習いルートツ・バイラスの17年間の記憶だったのだ。
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