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カランカラン。
ちょうどドアベルを鳴らして、お客さんが入っていくところ。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
わたしよりもずっとハキハキとした明るい唯菜ちゃんの声が、お店の中から響いてくる。
「では、こちらの窓側のお席にどうぞ」
唯菜ちゃん、すごい。心配なんかする必要、全然なかった。
窓の向こう側で、唯菜ちゃんがお客さんにキラキラ笑顔を振りまいているのが見える。
お水を運んできた爽が、お客さんになにか話しかけられ、唯菜ちゃんの隣で恥ずかしそうな笑みを見せている。
ここが、わたしの唯一の居場所だったはずなのに……。
六年生のクラス替えで、去年まで仲のよかった友だちと離ればなれになっちゃってから、まだ友だちと呼べるような子が誰もいなくて、クラスではいつもひとりぼっち。
お店のお手伝いは、失敗して叱られたり、大変なことも多いけど、それでもお父さんのお料理を食べたときのお客さんの笑顔を間近で見られるっていうのが、わたしの一番の楽しみだった……のに。
こんなとこにいても、お店に入ることもできないし……もう帰ろっかな。
わたしは、とぼとぼと唯菜ちゃんちに向かって、再びゆっくり歩きはじめた。
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