3人が本棚に入れています
本棚に追加
ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ。
しんと静まり返った家の中に、電子レンジの温め完了を知らせる電子音だけが、寂しく響く。
「あっつ」
ビーフシチューのお皿を取り出そうとして、反射的に手を引っこめる。
え、熱い。こんなの、どうやって出したらいいの?
いつもなら、お客さんに提供した残りとはいえ、アツアツをお鍋からよそってもらうのが普通だったのに。
それが、そんなにぜいたくなことだったなんて、思ってもみなかった。
今、唯菜ちゃんはお母さんと二人暮らしで、バリバリのキャリアウーマンのお母さんに代わって、お手伝いさんがいつも夕飯を作り置きしていってくれているらしいんだ。
『ごはんをさっさと食べて、お風呂に入って、自分の部屋にこもってたら、なんの問題もないから』って言われたけど。
それって、ずっとひとりってことだよね?
会ったこともない唯菜ちゃんのお母さんと顔を突き合わせてごはんを食べるっていうのも、緊張してのどを通らなくなりそうだけど。
ずーっとひとりぼっちっていうのも、それはそれで、なんていうか……やっぱり寂しいよ。
あーあ。いつになったら、わたしの心はわたしの体に戻れるんだろ。
もしも、一生このままだったらどうしよう。
言葉にできない焦りや不安で、心臓がドクンドクンと大きく打ちはじめる。
ムリだよ、そんなの。絶対にイヤ。
でも、どうしよう。もしも、本当にそんなことになっちゃったら。
もう二度と、お父さんとお母さんの娘として会えなくなっちゃうってこと?
じわっと涙がにじんできて、わたしは手に持ったスプーンをぎゅっと握りしめた。
最初のコメントを投稿しよう!