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1.なんで!?
あーあ、やっぱり手をあげられなかった。
あの役、やりたかったのにな……。
ステージの上で、たったひとりで歌って、わたしの歌に、みんなが耳を傾けてくれる。
そんなステキな役なのに、主役のオーディションに手をあげる勇気すらなかった。
もしわたしが、赤坂唯菜ちゃんみたいにキラキラした女の子だったら……きっと勇気を出して「やりたい」って言えたんだろうな。
わたしも、唯菜ちゃんみたいな女の子だったらよかったのに。
そんなこと、考えるだけムダだってわかってるけど。
いつだって教室のすみっこにいるぼっちなわたしが、いつだって笑顔でたくさんの友だちに囲まれている唯菜ちゃんみたいになれるわけがないんだから。
ごんっ!
「ひゃっ!」
気づいたら、廊下にしりもちをついていた。
おでこがジンジンする。
多分、廊下を走って曲がってきた誰かと正面衝突しちゃったんだ。
相手の子も、わたしと同じように廊下にしりもちをついて、おでこを押さえている。
まるで鏡みたい。
「いったたたた……ごめんね、大丈夫?」
「うん……だ、大丈夫」
「ちょっと、どうしたの⁉」
パタパタと複数の足音が近づいてきたかと思ったら、誰かがわたしの腕を取って助け起こしてくれた。
「あ、ありがと」
振り返ってみると、同じクラスの杏ちゃんと凛香ちゃんだ。
「気をつけなさいよね。唯菜がケガしたらどうすんのよ」
まだしりもちをついたままの女の子に向かって、杏ちゃんが文句を言う。
……うん?
「え? なに言ってるの? 唯菜はあたし……」
しりもちをついたまま顔をあげた女の子が、わたしを見て目を見開いている。
……え?
きっとわたしも、まったく同じ顔をしていたんじゃないかな。
それこそ、ここに鏡があるんじゃないかっていうくらい。
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