1.なんで!?

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 けど、こんなところに鏡なんかあるわけない。  だけど、目の前でしりもちをついているのは、わたし――蒼乃(あおの)心春(こはる)で。  じゃあ、わたしはいったい誰? 「はい、唯菜」  凛香ちゃんが、ぶつかったときに廊下に散らばってしまった音楽の教科書とリコーダーを拾ってくれた。  ……ちょっと待って。今わたしのこと、『唯菜』って言ってなかった? 「だから、唯菜はあたしだって言ってるでしょ⁉」  しりもちをついたままの『わたし』が、すかさず文句を言う。 「ちょっと。心春、頭ぶつけておかしくなったんじゃないの?」 「唯菜に憧れすぎて、夢と現実がごっちゃになってるんでしょ。かなりヤバいよね」  杏ちゃんと凛香ちゃんが、顔を見合わせてクスクス笑っている。 「ま、待って。わたしがホンモノの蒼乃心春だからっ」 「もー、唯菜までこんな笑えない冗談にノッてあげなくていいってばー」  バシッと背中をはたかれ、ケホッとむせる。  いやいや、冗談に乗ったつもりないから。 「ほら、早くペンケースを取りに戻らないと、音楽の授業はじまっちゃうよ」 「あ、あの……ひとりで取りに行けるから。先に音楽室に行っ……といてもらえる?」 「おっけー」 「わかった」  杏ちゃんと凛香ちゃんの背中が曲がり角の向こうに消えると、廊下に重い沈黙が落ちる。
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