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けど、こんなところに鏡なんかあるわけない。
だけど、目の前でしりもちをついているのは、わたし――蒼乃心春で。
じゃあ、わたしはいったい誰?
「はい、唯菜」
凛香ちゃんが、ぶつかったときに廊下に散らばってしまった音楽の教科書とリコーダーを拾ってくれた。
……ちょっと待って。今わたしのこと、『唯菜』って言ってなかった?
「だから、唯菜はあたしだって言ってるでしょ⁉」
しりもちをついたままの『わたし』が、すかさず文句を言う。
「ちょっと。心春、頭ぶつけておかしくなったんじゃないの?」
「唯菜に憧れすぎて、夢と現実がごっちゃになってるんでしょ。かなりヤバいよね」
杏ちゃんと凛香ちゃんが、顔を見合わせてクスクス笑っている。
「ま、待って。わたしがホンモノの蒼乃心春だからっ」
「もー、唯菜までこんな笑えない冗談にノッてあげなくていいってばー」
バシッと背中をはたかれ、ケホッとむせる。
いやいや、冗談に乗ったつもりないから。
「ほら、早くペンケースを取りに戻らないと、音楽の授業はじまっちゃうよ」
「あ、あの……ひとりで取りに行けるから。先に音楽室に行っ……といてもらえる?」
「おっけー」
「わかった」
杏ちゃんと凛香ちゃんの背中が曲がり角の向こうに消えると、廊下に重い沈黙が落ちる。
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