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2.寂しい
わたしと唯菜ちゃんの心が入れ替わってから、残り四時間の学校生活をなんとか乗り切っ……いや、あまりにわたしの演技がヘタすぎて、唯菜ちゃんのため息が何度も聞こえてきそうだったけど。
まあ、なにはともあれ無事授業を終えて、やっと迎えた下校時刻。
一旦唯菜ちゃんちに荷物を置きにいったんだけど、知らない家にずっといるのもなんだか落ち着かなくて、ソワソワしながら家を出た。
もちろん、宿題は済ませてからね。
だって唯菜ちゃん、「帰ったらまず宿題。絶対にね。忘れたら許さないから」なんて怖い顔で言うんだもん。
家を出たのはいいんだけど、どこに行こう?
行くあてなんかないんだよね……。
なんて思いながら夕方の街をさまよい歩いていたら、『亜桜野』の常連の山下のおばさんが、両手にお買い物袋をさげて前から歩いてきた。
「山下さん、こんにちは」
にこやかにあいさつをするわたしに、怪訝な顔をしつつも「こんにちは」って返してくれたところで、やっと気がついた。
……あ。そういえば、今わたしは唯菜ちゃんだったんだ。
あはははと愛想笑いを浮かべてぺこぺこしながら通りすぎると、小さくため息をつく。
よく知っている街のはずなのに、なんだか全く知らない街にでも迷い込んだみたい。
あーあ、なんだか寂しい……。
そのままとぼとぼと歩き続けていたら、気づいたら自分ちの前にいた。
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