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 機能の拡張は無料だし、お試しのおやつもくれるという。  断る理由などない。  僕は、即座に「お願いします」と言った。  すると、修理技術者は、僕の膝に顔をすり寄せ甘えていたピートを、ひょいっと抱き上げ強制終了させた。  そして、いくつかの工具をケースから取り出し、閉じたままになっているピートの口をちょこちょこいじっていた。  それがすむと、今度はしっぽの下をカタカタ鳴らして何かを取り付けた。  彼は、工具をケースに片付けると、再びピートを起動した。  ピートは、ちょっと驚いたように目を輝かせ、ゆっくり口を動かし始めた。  閉じたり開いたり、開いたり閉じたり――。  動かし方を確かめているようだ。 「ピューーイ!」  突然、今までは体のどこかにあるスピーカーから流れ出ていた電子音が、小さく開けたピートの口の中から聞こえてきた!  ピートが、しゃべっているような気がした。なんて可愛らしいんだろう!!  修理技術者が、「おためしおやつセット」の袋を僕に渡してくれた。  袋からタブレットを一つ取り出し、指でつまんで振ってみせると、ピートは僕の前に来て、物欲しそうに口をもぞもぞと動かした。 「ピート、いつもありがとう。ほら、ご褒美のおやつだよ!」  ピートがパカッと口を開けたので、僕はその中へタブレットを押し込んでやった。  ピートは、口をもぐもぐ動かして、嬉しそうにタブレットを飲み込んだ。 「おやつは、超小型の電池のようなものです。ピートの体の中には、そこから電気を受け取る仕組みがあります。このおやつは、ちゃんとピートのエネルギーになるんですよ。 使い終わったおやつは、しっぽの下に取り付けた箱の中に排出されますから、取り出して保管しておいてください。定期検査のときに回収しますので――」  作業を終えた修理技術者が、そう言い残して出て行ったドアを、僕は喜びに浸りながらしばらくの間見つめていた。  絶対に無理だと思っていた「ピートにえさやおやつをあげる」という夢を、かなえることができたのだ。  僕と一緒に、玄関まで修理技術者を見送りに来たピートが、無垢な瞳で見上げながら僕の足に体を押し付けた。 「ピート!」  僕はそう叫んで、力いっぱいピートを抱きしめた。  僕の腕の中で体をもそもそさせながら、ピートが天使の声を思わせる愛らしい電子音でささやいた。 「オナカ ガ シュイタヨ!」
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