地球の文化

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 四月一日に生まれた琴葉(ことは)は、だからなのかはわからないが、とかく嘘をつくことが好きな少女だった。  やれ幽霊が見えるだの、タヌキが喋っただの、有名人がどこそこに現れただの、取るに足らないしょうもない嘘ばかりつくのである。  周りの者は呆れはしたが、まぁ誰も傷付けまいと、強く(とが)める者はいなかった。明るく愛嬌(あいきょう)のある琴葉は、そうやって嘘をつくことを許されてきたのだ。  そんな琴葉の運命に転機が訪れたのは、生まれて十五年目の、十二月のことである。  (ほこり)とも綿菓子ともとれる分厚い雲の隙間から、大きな銀盤が現れた。  宇宙船である。中から現れたのは、これまた絵に描いたような宇宙人で、目は大きく、体は細長い銀色であった。  宇宙人は人間を前に、ある演説を始めた。要約すると、この星はお前達にはもったいないので、我々が侵略する、という話だ。  これには世界が慌てふためいた。各国のお偉方が膝を突き合わせ話し合い、この星の未来を守るべく頭をうんうん悩ませた。  そうして導き出された結論が、説得である。人間より遥かに高次元なる領域に住まう彼等に、戦いを挑むなどもってのほかだ。  ならば話し合いしかあるまいと、誰もが弱々しく賛同した。  さて、そこからは話が早い。  まずは世界を代表する、各国のお偉方が話し合いに向かった。政治家が、学者が、警察が、作家が、スポーツ選手や役者に至るまで。説得に試みて、あえなく撃沈していった。  無理もあるまい。彼等にとって地球人など、取るに足らないミジンコ以下。対等な話し合いなど、あっていいはずがないのだ。  これには誰もが悲鳴をあげた。利口な宇宙人様は、自分達が上位の存在と理解している。故に与えられた猶予期間も、そろそろ終わりが近付いていた。  できれば無傷で侵略したい。しかし抵抗するならば、こちらとしても容赦はしない。それが彼等の主張である。  悩みに悩み抜いた世界のトップらは、ついにある決断をした。  話の上手い詐欺師を、説得役に駆り出したのだ。それから、とある宗教の教祖を、犯罪組織の長を。数撃ちゃ当たるとばかりに駆り出し、そしてあえなく撃沈した。  万事休す。ついに終わりは訪れた。  誰かがもう駄目だと嘆き、違う誰かが地球は終わりだと涙を流す。  そんな中、唯一諦めずに声をあげ続けた男がいた。 「どうです、みなさん。もうできることはやり尽くしました。悪足掻きでしかありませんが、最後にもう一人だけ頼ってみようじゃありませんか」  男の投げやりな提案は、まともな思考回路ならば誰も許さなかっただろう。  けれどもこの四ヶ月、本当につらく苦しい毎日を送っていた彼等彼女等は、あっさりと同意を示したのだ。 「では決まりです。八十億の中から選ばれたもっとも幸運な人間に、この星の運命を託そうではありませんか」  かくして琴葉は選ばれた。公平な、イカサマなしのクジにより、星の運命を担うことになったわけである。
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