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『生命保持法』
約三年前、この法律により『長考』という権利ができた。
とあるパラレルワールドで、他のパラレルワールドに送る装置ができたからだ。その行く先は、一番平和で犯罪など皆無な国だった。
装置を作った側の世界は、その装置を大罪人に使用した。一方通行の装置は、あちら側にとって都合がよかったが、こちら側にとっては大迷惑だ。
大罪人にとっては天国、住民にとっては地獄が始まった。犯罪が横行し、善人ばかりの国では対処が遅れるばかり。
困り果てた国は、殺人を職業にして希望者を募集した。犯罪者よりも強い人が理想だが、そんな人は平和に暮らしたいと身を隠す。
戸籍を抹消され、毛嫌いされ、後ろ指さされる職業に就きたい希望者など、どこかネジが外れている人ばかり。
意外にも、希望者の大半はプロになる。試験に合格するとコードネームを与えられ、国から手厚い支援を受け、希望する物資は全て与えられた。
「殺しを職業にするなんてどういうことなのかっ」
実害のない、平和ボケした人たちは発狂した。殺人を職業にするなんてどうかしている。正論による抗議は世界中に火がつき、激しい抗議活動まで巻き起こった。しかし、沈静化も速かった。
それは、国の代表者による声明によってだった。
『そう思うのも無理はない。しかし、このままでは犯罪者に国を乗っ取られてしまう。世界まで広がるのも時間の問題だ。暗殺にして未解決事件にするのはいかがだろう』
嘘のように静まり返り、上層部による話し合いが何度も行われた。人権を守るため制定されたのが『生命保持法』だった。
『犯罪者にも人権を。人は誰だって間違いを起こす』
ザックリ言えば、こんな内容だ。ターゲット、つまり、対象とされた人間が『長考』を宣言することで、六時間の猶予が与えられる法律だ。後者の、『人は誰だって間違いを起こす』は犯罪者に向けられた言葉ではない。ヒューマンエラーにより、ターゲットが犯罪者ではない場合の対策だ。
また、法律は、いざという時に国の責任が問われないよう、抽象的な表現を多用した文言で記録されている。
暗殺者にもルールがある。師弟関係は絶対で、連帯責任。合格前ならチェンジ可能だが、合格後は不可。不正がないよう、任務中は襟元付近にカメラを装着しなければならず、長考中は監視される。
暗殺者は胸元に自爆装置が埋められ、緊急時にはカメラからの信号により処分される。
六時間は退屈だ。監視者の飽きを防ぐため、ターゲットと暗殺者にはゲームが用意されていた。
『長考時、ターゲットは暗殺者の真実を暴けば無罪放免。ターゲットは質問し、暗殺者は正直に答えねばならない』
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