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女の態度に男は安堵した。人を殺めた同士だから受け入れられたのか。勘違いした男は、嬉しそうに話し始める。
まずは生い立ちから。
男は父子家庭だ。父親が暴力をふるう人で、力でねじ伏せた時はとてつもない解放感を得た。父は俺の言うことに全て従った。大学進学時に父が死に、男は金に困った。大学を中退し、自分よりも弱い人から金を奪い豪遊することが、一番の至福だった。
味わった快楽を忘れることができず、効率化で対象をお金持ちに絞った。気に入られるために何度も部屋に通い、家族構成を調べつくした。安全だとわかると殺害し、そいつに成り代わった。一人目は家族と疎遠で、二人目は身寄りがなく、三人目は絶縁され、四人目は八人兄弟の四番目だった。身内の葬儀に出席しなければならないタイミングで逃げ出していたが、五人目の家族にすぐバレて、逮捕された。
女は常に寄ってきた。飽きたら捨て、執着する人は殺して埋めた。強い男はモテるものだ。逮捕された後も、多くのラブレターで看守を困らせた。
俺は何も悪くない。悪いのは国。貧富の差を生み出し、正しい教育を受けさせない国。
そう主張していると、パラレルワールドに送られた。
ここは俺に合っている。今の俺を評価してほしい。十年近くいるが、問題を起こしてないじゃないか。むしろ、感謝されていると思う。全員がいい人で、良好な関係を築いている。金に困ることはないから、暴力で奪い取ったこともない。この先もここで生き続けたい。
「いやあ、人って変わるもんだよな。俺自身も驚いた。あ、こんなこともああったな」
男は過去の思い出に満たされて、恍惚とした表情で宙を眺めていた。犯罪を武勇伝のように語り続ける男に、女は無表情で答えた。
「あと二時間です」
現実に引き戻された男は不機嫌になる。
「ねえ、聞いてた?俺、君が聞きたいって言ったから語ったんだよ?あっ、今の見た目なら嘘くさいと思うよね。十年も前だよ?こんな中年体型じゃなかったし、顔ももっと、こう、シュッと整っていたんだ」
身振りを交えて話す男に、女は銃を突きつける。
ひたいにぴったりとついた銃口は、男の口を封じ込めるのに十分だった。
「あと、一時間五十八分です」
「う……あ……」
女は撃鉄を起こし、男のひたいに強く押し付けた。
「あなたは、他人がどう思うか考えたことはありますか?」
「あ……ああ……」
「はあ」
女は、銃口をひたいから右に動かし、男の耳横を打った。
バキバキッ。
轟音が響き、ドアに穴が開いた。男の左耳がキーンと耳鳴りしている。
男が呆気に取られていると、女はもう一度同じ場所に狙いを定めた。
「出てきてください。次は当てますよ」
「どうしてわかった」
そう言って両手を上げて出てきたのは、防護服をしっかりと身につけた若者たちだ。ヘルメットまで身につけた徹底ぶりだ。
人数は五人で、腕の逞しさと胸と太ももの厚みから、体を鍛えているのがわかる。
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