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「ニオイです」
男たちは自分自身で体臭を確認した後、互いに嗅ぎ合い、首を傾げる。
「汗臭くない気がするが」
女は申し訳なさそうに男たちに伝えた。
「プロですから」
「すまなかった」
女は、銃口の向きを変えぬまま男たちを威嚇し、男たちを分析する。
背の高い二人の男が両端、背の低い男は二人、真ん中の挙動不審は人数合わせ。年齢は私より五、六歳上。右端はコンタクト。リーダーは眼光の鋭い左端。男たちはターゲットの男に味方するように、背後に並ぶ。
短期間で集めた人数にしては多い。統制がとれていないと予想外の動きが多くて鬱陶しい。
女は気持ちを切り替えて、ヘルメットの下に銃を戻した。
「お返事を」
「わかっている」
左端のリーダー格の男が、凄みのある声で答えた。ターゲットによほどの恨みがあるらしく、男の頭上を般若のような顔で睨んでいる。
リーダー格の男だけではない。一人を除いた男全員が、凄まじい形相でターゲットを睨んでいた。
ターゲットの男は、仲間が増えて気が大きくなったのか、胸を張る。
女は、あまりの茶番劇に必死に笑いをこらえていた。助けに来たと思っている滑稽さに、女は男を哀れみさえした。
このままでは顔を見るだけで笑ってしまう。女は目を伏せ気持ちを落ち着かせると、リーダー格の男に伝えた。
「残り一時間ニ十三分です」
「わかっている」
リーダー格の男は、今の状況に酔いしれていた。暗殺者の女に対して強気の姿勢を崩さない。
「邪魔をするのでしたら、やめたほうが」
とりあえず、女は忠告した。心酔している男たちには届かないと思っていたが、すぐに狼狽えた五人の男たちに、女は目を細める。
ああ、可愛らしい。
鍛えられた体、健康的な肌、パサパサの髪。余計なことを考えず仕事をしていれば、私に会う選択はなかっただろうに。農作業を続けていれば、必ず出世していただろうに。
筋肉のつきかたが左右で違う。隙だらけで、弱すぎる。一分あれば全滅させられる。
「この男を俺たちに譲ってくれないか」
物思いにふけっていた女はゆっくりと顔を上げ、リーダー格の顔を確認した。涙、鼻水、汗。今にも崩れてしまいそうな歪んだ表情に、女は目を見開いた。
「それほどまでに、ですか?」
「そうだ」
勝ち目のない状況で主張する勇者には、称賛を。女にとっての称賛は対等に扱うことを意味し、女は穏やかにほほ笑み、要求を拒否した。
「ごめんなさい」
「なぜだ?この男は、俺たちの家庭に寄生して、多くを奪っていったんだ」
「そうですか」
「は?俺は奪ってないけど」
横やりを入れてきたのはターゲット。男は、やっと後ろを振り向いた。五人の威圧感で一度たじろぎ、体制を整えて圧をかけ返す。
「やっぱり、おまえたちじゃないか。俺が、なにをしたって言うんだよ」
その一言を皮切りに、取っ組み合いが始まった。
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