3「……ねえ、脱いで?」

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「…………店はいつもこんな様子なのか? さっきから、人が全然来ないけど」  いいながら、二人そろって目を向けるのは窓の外。穏やかな初夏の午後、テントの影も色濃く石畳の上に映えている。  行き交う人もまばらな通りを窓ガラスの向こう側を横目に、エリックが次に見るのは壁掛け時計だ。  この店と同じように年季の入った掛け時計の針は、彼がここを訪れてから、ゆうに小一時間以上経っていることを示していた。  顔の表層に微細な心配を浮かべるエリックに対し、しかしミリアはけらけらと笑うと、 「まーねーっ。……モーテル通りにいくつも新しい工房ができたでしょ? 若い人はそっちに流れちゃうよね~。ウチみたいに、旧街道に建つ店なんか大体こんなもんだよ~」 「……大丈夫なのか?」 「それはご心配なく〜。愛され続けて50年。ビスティーは、お客様の満足にお答えします♡」  答えながら右で作るご機嫌なサイン。  閑散としている店など全く気にもしていない様子に、エリックが(呑気なもんだな)と、わずかに笑みを浮かべそうになった──その時。 「────と、言うわけで」 「ん?」 「──500メイル。頂戴しまーす♡」 「はっ?」  声も高らかに。ぺろっと出した手の指を、ちょいちょい動かしながら言われて間の抜けた声を上げた。  一瞬、彼の中でめぐるのは『お礼』の一言である。それらを瞬時に顔面の表層にのせ、エリックは戸惑いの目を向け、 「…………え。金をとるのか……!?」 「当たり前でしょ、ただでやるわけないじゃん」 「いや……待って。君、さっき「お礼」って言ってなかった?」 「それはボタン代ですねぇ~。糸代と技術代は別料金です」 「…………ちゃっかりしてるな…………」  勝手にやっておいてこの言い分。  『当然でしょ』があふれ出るその態度に、こうべを垂れつつ舌を巻いた。  別に金を払いたくないわけではない。  『してやられた感』が否めないのだ。  (ああ、さっきから調子が狂いっぱなしだ)と苦々しく呟く彼の前、ミリアは左の方から大きめの台帳をひっぱりながら口を開け、 「言っておくけど、これでも大特価! あ、お金ないならツケておくよ? お名前は?」 「…………いや、金ぐらいあるよ」  台帳にガラスのつけペンの先をぐっと押し当てるミリアに、静かに首を振る。  その表情は今も『やられた』感が否めないが、仮にもサービスを受けている。  これを踏み倒すほど金に困っちゃいないし、踏み倒すなんてエリックのプライドが許さなかった。  ────それに。
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