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「中島くんって、高校の時はアイドルとかに興味があるタイプじゃなかったよね」
「まぁな」
きっかけは、大学の友人に誘われて行ったライブだった。
その友人は、グループの事務所のスタッフに知り合いがいるとかで、格安でチケットを譲ってもらったというだけで、一度ライブに行ったあとは、まったく興味を示さなかった。
なにかと要領のいい友人だから、彼女もしっかりいたし、大手企業にも就職が決まった。
今頃は、アイドルとは無縁の生活を楽しんでいることだろう。
大学卒業後はまったく連絡を取り合っていないので、知らんけど。
「ふーん、そっかぁ。今度CD貸してよ……って言いたいところだけど、今はあんまり思い出したくない感じかな? ごめん。あ、もし食べるものに困ってたら、うちにきてよ。店で出してるようなメニューでよければ、いつでも奢るからさ」
「……おまえ、そんなに誰にでも優しくしてると、そのうち誰かに騙されて借金でも背負わされるぞ」
気持ちはありがたいが、心配の方が勝る。
昔からふわふわしているやつだったにしても、七年ぶりに再会した同級生にそこまで優しくするのは、人がよすぎだと思う。
「え? あはは、まあ生きていれば、どうとでもなるんじゃないかな」
「おい、その様子は、すでに騙されたあとだな」
「借金とかじゃないから大丈夫だよ。ちょっと、宝くじの購入代金を貸してあげたら踏み倒されたぐらい」
「宝くじ?」
「七億当たったら、三千円を百万円にして返してやるからって」
「絶妙にせこいな」
七億当たったんなら、半分……とまではいかなくても、一億ぐらいやる、と言ったらどうなんだ。
「だいたい、当たるわけないだろ、宝くじなんて」
「そうなんだよねー。でも、『当たるかも』って思ったら楽しいよね。あ、僕は買ったことないんだけど、そういう夢のある話を聞くのは好きだよ」
幻、というほどではないにせよ、おそらく一生当たる機会はないであろう宝くじの一等当選を夢見るのと、手が届きそうで届かないアイドルに生活費以外のすべてをつぎこむのとでは、どっちが馬鹿らしいんだろう、とふと思った。
(ま、夢は人それぞれか)
夢見ることそのものが悪いわけではないのだ。
(楽しい夢をありがとう、そう思えばいいのか)
推しをひたすら追いかけている間は、ひたすら楽しかった。それでいいじゃないか。
でももう夢のひとときは終わったので、俺の部屋を埋め尽くしているグッズは処分しなければならない。
そう思うと、気が重くなってくる。
「プリンも食べる?」
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