フレンチトーストには甘い魔法がかかっている

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 空になったスープのカップの中をぼんやり眺めていると、犬山がプリンの乗った皿を持ってきた。  白い皿に乗ったプリンもまた白く、上からカラメルソースらしきものがかけられている。 「なんだそれ。プリン?」 「ミルクプリンだよ。今度、うちの新メニューに加えようかと思ってて。昨日作った試作品なんだけど、よかったら感想聞かせてよ」 「ふーん」  せっかくなので、食べてみる。 「美味い」  市販の三個セットで百円ぐらいのプリンしか食べたことのない俺からしたら、高級なご馳走のように思えた。  いや、あの激安プリンと比較したらさすがに失礼だろうけど。 「ほんと? よかったー」  犬山は嬉しそうにふわふわと笑っている。 「ところでおまえ、開店準備しなくていいのか?」  さっき、外に出てきたのは、開店準備のためだったはずだ。  何時開店なんだか知らないが、モーニング目当ての客がいるような店なら、そろそろ準備をした方がいいだろう。 「あ、そうだった。ごめん、手伝ってくれる?」 「はぁ?」 「テーブル拭くだけでいいから」 「……仕方ねぇな」  食べたり泣いたり喋ったりしているうちに、頭痛はだいぶマシになってきたので、俺はのんびりと立ち上がった。  実は今日は俺も仕事の予定だったんだが、今日ぐらいはサボってしまおう。  たまにはこんな日があってもいいはずだ。  そう思えたから。 「ありがとな。おまえに再会できたんなら、たまには行き倒れるのも悪くない」 「行き倒れるのは、もうやめた方がいいんじゃないかな」 「うるさい。ワンコのくせに偉そうに言うな」 「僕のことワンコって呼んでくるの、もう中島くんだけだよ」  END
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