一人花見

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人混みが嫌い 人と食事をすることが嫌い な僕は、社会人になってからの飲み会がとても憂鬱だった。 上司や先輩に気を遣い、食べた気がしない。 自粛、自粛で色々と不便であったが、コロナ禍のために飲み会が無くなったことは僕にとってとてもよかった。 もともと一人でいることが好きなのだ。 気が楽で、自分のペースでなんでもできる。 だから一人でも苦にならない。 そんな僕のお気に入りの場所がある。 小さい川沿いに桜が植えられている小道だ。 欠点は砂利道ということだけで、普段は車が全く停まっていない。 夏は桜の葉で日陰になり、窓を開けていると川から涼しい風が入る。 冬は遮る物がないのでサンルーフを開ければ、日差しが入り、車内は暖かい。 桜が咲くとたくさんの花見を楽しむ人が訪れるので、車は停める所が無い。 満開の桜は綺麗に感じるが、僕は散り始めた頃の桜が好きなので、その頃には来る人はまばらになる。 そういう理由で今年も待ちに待って、散り始めた頃にお気に入りの場所にやってきた。 いつも停める場所に車を停めて外に出る。 川のせせらぎが聞こえる。 一枚、また一枚と桜の花びらが散っていく。 ゆっくり、ゆっくり時間をかけて音を立てずに地面に不時着する。 僕の好きな光景だ。 川沿いの遊歩道を歩きながら、ひらひらと舞う桜の花びらを子供のように追いかけて、追いかけて手のひらの中におさめ、ふっと息を吹きかけて開放する。 車に戻り、サンルーフを開けると桜の花が見え、ガラスに何枚かの花びらがのっている。 いつもよりちょっと高い弁当とコーヒーを食べ始める。 味も景色もとても贅沢なひと時だ。 食後はシートを倒して、何も考えず、ただ桜をぼっーと時間を気にせず眺めていた。 (来年も見に来れますように) 僕はそう思いながら、車のエンジンをかけた。
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