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第1話 引き寄せるものは
1
「蓮くん、ちょっといい?」
喫茶店の業務を終えた僕が、自分の机でのんびりしていたところ、同じく自分の机で何やら作業をしていた千鶴さんから声がかかる。
「どうしました?」
僕はこれだけ言って、千鶴さんの様子をうかがった。
現在時刻は午後六時ちょうどで、うちの営業時間はあと一時間ある。
しかし、僕はだいたいこのくらいの時間にはすることがなくなっているので、千鶴さんの声が聞けるとそれだけで嬉しくなる。
「突然だけど、伝えたいことがあるの」
千鶴さんはこう言ったが、席を立とうとはしなかった。
休憩用のテーブルに移動するつもりはないようで、僕も動かずに会話を進めることする。
「は、はい。なんでしょう」
伝えたいことがある、なんて出だしで会話が始まることなんて今までなかったから、僕は少しだけ緊張して答えることになった。
いったい何を言われるのだろう。
「実は私、来週からしばらく、家を空けることになりそうなの」
僕が千鶴さんとともに働くようになって三年半が経つが、未だかつてないほどの衝撃の展開に、僕は声を出すことができずにただただ驚くだけだった。
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