第1話 引き寄せるものは

15/77
前へ
/288ページ
次へ
「対策は大きな割引だけだったの?」  千鶴さんも終わらせる気はなかったようで、まさに僕が話そうとしていたことに触れてきた。  他にも何かあったに違いないと、そう思ったのだろうか。その読みは正しい。 「いえ、割引以外にも、中長期的に続けられるものがあったほうがいいんじゃないかって、当時のバイトリーダー的な人が言ったんです」 「おぉ、すごいね。私も思ったよ。ライバル店が出てきたときだけ打ちだすキャンペーンじゃ、あとが続かないかなって」 「話し合いはしばらく続いて、いろんな意見が出ました。メニューを増やすとか、充電器貸し出しサービスとか、無料Wi-Fiを完備するとか」 「内部充実を図るのは大事だよね。それにしても、充電器とかWi-Fiか。若い人たちの考えって感じだね」  メニューに関しては一朝一夕でどうにかなるものじゃないからと、ひとまず今回の対策からは外れた。  スマホの環境については前向きに検討することになったが、これではインパクトに欠けると、話し合いはさらに続くことになった。 「最近じゃ各テーブルにコンセントが用意されてても普通ですからね。大きい店になればなるほどその手のサービスは充実してるだろうからと、他の店にはない何かを出したいと、社長が言いました」 「そうだねぇ。個人経営の発想って感じもするけど、大規模チェーン店に立ち向かうならそういう策も欲しいね」  僕としては、料理の味さえよければ、常連客は離れないんじゃないかと思っていたけれど、当時はそういう空気にはならなかった。  もうすぐこの話も終わりだ。
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加