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「そんなに驚く?」
やや困ったような笑顔で、千鶴さんが続けた。
僕は思っていることが表情に出やすいと言われているから、今はさぞかしわかりやすい顔をしていたことだろう。
「いや、まぁ。え、どうしてですか?」
動揺を隠せない僕は、反射的にこう聞いていた。
いつ、どこに、何をしに行って、そしていつ帰ってくるのか、気になることは山ほどある。
「いわゆる、取材だね。今度書くことになった小説の舞台を研究するために、一週間くらい使って高山のほうに行くの」
千鶴さんはここで探偵業と喫茶店業をするだけでなく、執筆業も行っている。
出版依頼という形で、出版社からこういう物語を書いてほしいと頼まれることがあるとは聞いていたから、この話自体は理解できた。僕が一緒に行けないわけだ。
「えっと、その間お店はどうしましょう。探偵業はお休みでいいですよね?」
僕たちはもともと、今井探偵事務所として探偵業を行っていた。
しかし、千鶴さんが僕の淹れるコーヒーを気に入ってくれたことから、探偵事務所と喫茶店を融合させた探偵喫茶を開くことになった。
探偵業における僕は事務担当なので、千鶴さんなしでは成り立たない。
喫茶店は紅茶が提供できなくなるけれど、僕一人でやっていけないこともない。
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