17人が本棚に入れています
本棚に追加
/288ページ
「そう。どこか遠出したり、昔の友達と遊びに行ったり」
千鶴さんは楽しげにしているが、その理由はなんとなくわかっている。
僕と距離を置きたいというわけではないはずだ。
僕たちは現在、結婚することを前提にお付き合いをさせてもらっているが、それぞれの時間だって大切にするべきだと、千鶴さんは前から言っている。
常に一緒にいられるわけじゃないんだから、いざ相手がいないときに退屈しないように、他の友達やひとりでできる趣味なんかがあるといいという千鶴さんの主張に、僕は一定の理解を示した。
「うーん、今から計画を立てるのも難しい気がしますね……」
「言うのが遅くなっちゃってごめんね。ほんとはもっと秋が深まる頃のはずだったのに、編集さんの都合で前倒しになっちゃったんだ」
千鶴さんはこう言ってくれたが、これは僕の問題だ。
あまり積極的に行動しようと思えないのである。
そんな僕が唯一思いついたのは、千鶴さんが行くという高山に単身で旅行することだ。
千鶴さんと行動を共にすることはできなくても、同じ場所に行ければ僕の気持ちは満たされるかもしれない。
ただ、これを口にするのははばかられる。
そんなに千鶴さんが好きかと言われれば迷いなく首を縦に振る僕だけど、おそらく千鶴さんはそれを望んでいない。
僕も行くと言ったら、いかに優しい千鶴さんでもどん引きするだろう。
最初のコメントを投稿しよう!