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「少なくとも、千鶴さんがうそをついているとは思いませんでしたよ。スケールが大きい話が急に舞い込んできて、驚きのあまり理解が追いつかないところではありましたけど」
なかったことにしていいと言われたから、千鶴さんがどんなことを言っていたのか、ほとんど思い出せない。
高山という地名だけが僕の頭に残る。
「そっか。取材旅行って実際どんな感じなのか、よくわかってなかったんだけど」
そんなの僕だって当然わからない。
現地の人や文化に触れたり、自然を感じたりして世界観を表現するのに役立てるという理屈はわかるが、それを出版社が企画して連れてってくれるのははたして普通なんだろうか。
「今までそういう話はなかったんですか?」
「ないね。モチーフとか登場人物の年齢とか、そういう指定はあったけど、特定の場所を舞台にしたお話を作ってくれって言われたことはない」
「千鶴さんの書くお話は、どれも現実にありそうな感じですけど、地名とかはあんまり出てこないですよね」
千鶴さんの作品をすべて読んだわけではないが、取材が生かされている感じはしない。
舞台となる場所よりも、登場人物たちの人間ドラマがメインって感じだ。
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