二、御三家と下僕の契約事項、注意書き

21/62
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
――(二)契約目的を達成するため、時に主人と下僕は共闘する――  笛吹さんに襲われかけた事件(私は笛吹さん事件と呼んでる)から数日後の放課後、松隆くんのお達しで、私と桐椰くんは生徒会室へ向かっていた。 「へえ、『こいこい』ね。花札になぞらえてくるなんて手が込んでんな」 「ふふ、まあ猪鹿蝶と三光の点数は同じですけど、私がいるだけで勝ってますからね。君達は怖いものなしですよ」 「何を偉そうに言ってんだ。お前一人はゼロ点だぞ」 「そんなこと言ったら御三家だって一人一人はゼロ点のくせに。ばーかばーか!」 「つくづく思ってたけどお前のそのキャラうぜーな」 「酷い!」  わっ、と顔を手で覆って見せる。拍子にズレた眼鏡をくいっと持ち上げると、桐椰くんが不愉快なものでも見るように眉間に皺を寄せた。 「総に聞いたけど、それ、笛吹の仲間にやられたんだって?」 「そうなのです。か弱い乙女になんて仕打ちでしょうね」 「ったく、笛吹も金持ってるから何も言われねぇんだよなあ。ああ見えて(きも)()わってないし、レイプまではさせてないみたいだけど。えぐいことやるよな」 「桐椰くん、セリフがえぐいです。そして私がか弱いところはスルーですか。……それから、笛吹さんがやってることに気付いてて何も言わないんですか」 「別に」桐椰くんは表情を変えもせず「言ったろ、生徒会を潰すのは建前だって。俺達が知りたいのは透冶に何があったか、だけ。そのために正役員を落としていくことが必要ならやる。でも、今はその要否が分からないから不要な労力を払わないだけ」 「……御三家って冷めてるよね」 「どうだか。……まぁ、透冶がいたら少しは違ったかもな」  その呟きにはセリフ以上の含意(がんい)があるように聞こえた。いや、今の呟きに限ったことじゃない、桐椰くんはいつもそうだ。透冶くんの話をするときは苦しそうな声になるし、何よりその名前を口にするときに、少し泣きそうな顔をする。  その表情に、私も少し切なくなるのはどうしてだろう。 「……ねぇ、透冶くんって、どんな人だったの」 「一言で言うと、甘ちゃん。あとは真面目。気が弱い。ってとこかな」  桐椰くんは特徴を述べると共に指を折りながら答えた。 「俺と総、こう見えても中学まで結構やんちゃしててさ」 「桐椰くんは今もやんちゃじゃ痛いっ」 「うるせぇな。少なくとも総はもう面影ないだろ」 「ううん、確かに松隆くんは痛っ」  話の腰を折る度に私の頭を叩き、桐椰くんは続けた。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!