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「おい騒ぐなって言ってんだろ」  もがく私の腕と口を押さえつけて、目の前の男子が忌々しげに呟いた。 「んー! んー!」 「うるせぇな無理矢理黙らすぞ! 今見つかったら俺達停学にこじつけられんだからな!?」  停学、という単語を聞いてぐっと押し黙る。分かったならいいと、彼は小さく舌打ちして、扉の隙間から部屋の様子を伺った。今いるのは、生徒会室の用具入れの中だ。  ……そう、用具入れの中。そこに私と男子が一緒に入っている。 「ったく早く出て行けよ……あと十分もしたら生徒会役員会議始まるだろ……」 「十分? 役員会議は十七時からでしょ? いままだ十六時半だけど……」 「……おい」  その男子の頬がひきつったのが、暗闇の中でも僅かに挿し込んでくる光で分かる。 「何でだよ……俺の時計なんで止まってんだよ!」 「ちょっと大きな声出さないで! あと三十分待てば出られるんだから……」 「三十分もお前と密着するなんて冗談じゃねぇ!」 「それは私のセリフなんですけど! そんなこと言うなら離れてよ!」 「おい馬鹿っ──」  ガンッ、と大きな音がした。私が彼の体を押して、彼が用具入れロッカーの扉に思いっきり肘鉄を食らわせたから。あ、と、二人揃って間抜けな声が出た。  ガラガラガラッ、と、バケツとホウキとホウキと塵取りと──諸々の掃除道具と一緒に、私と彼はロッカーから雪崩出た。彼の上に乗っかりながら、打ち付けた頭を押さえる。 「いったー……」 「痛いのは俺だ! 退けよお前絶対体重五十キロ超えてるだろ!」 「こ、超えてない! ギリギリ五十キロは超えてない! っていうかレディに向かって体重のこと言うなんて失礼にもほどがあるでしょ!?」 「あーはいはい、そういうことはレディになってから言ってくれます?」 「このっ──」 「ねーえー、そこで何やってるの?」  彼にまたがったまま言い争いをしていると、甘ったるい声が背中に突き刺さった。ギクリと、私と彼の身体が硬直する。その声がした方を見るために回った私達の首は、キリキリと音を立てているような気がした。  そこには、ストレートロングの黒髪を靡かせた美女が立っていた。その後ろには、下僕とも言うべき男子生徒四人もいた。はは、と、私は渇いた笑い声を漏らす。
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